佐渡 裕 新たなる幕開け 第2回(全3回) 世界の名だたるトップオーケストラを指揮してきた佐渡 裕さんが、2023年春、新日本フィルハーモニー交響楽団の第5代音楽監督に就任。東京・墨田区のすみだトリフォニーホールを拠点に、本格始動しました。シーズン始めの2023年4月初頭、新音楽監督が指揮する、最初の定期演奏会は連日満席。世界的マエストロへの大きな期待から、ホール全体が熱気に包まれました。そして、その場に鳴り響いた音は──。新しいオーケストラ像を描いて走り続ける佐渡さんに、想いを伺いました。
前回の記事はこちら>> 佐渡音楽監督就任の記念すべき定期演奏会は、辻井伸行さんをソリストに迎え、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番で開幕しました。佐渡さんが「僕の親友」と紹介するほど、近しい間柄のお二人。和気藹々のひとときを、ここに。
「佐渡さん、新日本フィル音楽監督ご就任おめでとうございます!」── 辻井さん
定期演奏会2日目のサントリーホールで。27歳離れた親友であり、親子のような絆もあり、世界をリードする音楽家として同志であり、真の喜びを共にできる存在。撮影協力/サントリーホール佐渡 裕さん(さど・ゆたか)1961年京都府生まれ。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。パリ管弦楽団、ベルリン・ドイツ交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団など海外でも多数指揮。現在、オーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督、国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者、2023年4月より新日本フィルハーモニー交響楽団第5代音楽監督。●佐渡 裕指揮の新日本フィル定期演奏会は、2023年10月28日(土)すみだトリフォニーホール、10月30日(月)サントリーホール、2024年1月19日(金)サントリーホール、1月20日(土)すみだトリフォニーホールにて行われる。辻井伸行さん(つじい・のぶゆき)1988年東京都生まれ。2009年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝。アシュケナージ、ゲルギエフなど世界的指揮者、アーティスト、オーケストラと数多く共演、N.Y.のカーネギーホール、パリのシャンゼリゼ劇場などで継続的にリサイタルを行う。オンラインコンサートやYouTube公式チャンネル開設など新たなムーブメントも起こしている。(※辻井伸行さんの「辻」は、正式には点が一つのしんにょうです。)舞台上でも佐渡さんと辻井さんの間には独特の空気が漂い、見事に通じ合う。互いの信頼感の賜物。30代のマエストロと小学生の「のぶりん」
佐渡さん(以下、佐渡) ラフマニノフのコンチェルト2番は、僕たちにとって非常に大事な曲やね。
辻井さん(以下、辻井) 本当に思い出深い曲です。今回、佐渡さんの就任記念コンサートという大切な場に僕を呼んでくださって、この曲で共演できるなんて、本当にうれしいです。ありがとうございます。ようやく久しぶりに佐渡さんと共演できる!
佐渡 “のぶりん”はすごい売れっ子になっちゃったから、なかなかスケジュールが合わないんですよ。
辻井 いやいや、そんな。でも、お目にかかるのも久しぶりなぐらいで、この曲での共演は、なんと10年ぶりです。初日のリハーサルで弾きながら、いろいろな思い出が甦ってきました。
一音一音慈しむようなピアノの音色が、オーケストラと呼応し、響き合い、ホール全体が音楽の世界に包まれた。大きなエネルギー、そして感動が渦巻いた演奏会。佐渡 のぶりんに出会ったのは、小学生のとき。彼の弾くピアノを録音したカセットテープを、知り合いの音楽ライターから渡されて。正直あまり期待もせず、自宅でお風呂に入りながら流していたら、すっごく心に留まって。「ボリュームあげて!」と、うちの奥さんに叫んだのを覚えています。それで楽屋に遊びに来てもらったんだよね、お母さんと。
辻井 13歳のクリスマスでした。佐渡さんの振る第九を聴いて、楽屋に伺って。雪がしんしんと降っている日で、佐渡さんにお会いできるなんて僕にとってのクリスマスプレゼントだ!と思ったのを覚えています。
佐渡 その場でショパンの曲と自作の曲も弾いてくれたよね。もう僕は涙が溢れてしまって。さっそく翌年パリに招いて、当時指揮していたラムルー管弦楽団と、モーツァルトのピアノ協奏曲を演奏したのが、僕らの最初の共演。
辻井 「佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサート」で、京都市交響楽団と「ラプソディー・イン・ブルー」を弾かせてもらったり。
佐渡 その頃のことで忘れられないのは、のぶくんが年賀状代わりに自作の曲を吹き込んで送ってきてくれて。カセットテープのA面が「マエストロゆうちゃん」。なんかよそよそしい、威張った感じの曲で(笑)。B面は「きみちゃん大好き」って、うちの奥さんへの曲。菜の花畑をふわふわ走っている彼女の姿が見えるような名曲で。覚えてる?
辻井 覚えてないです〜(笑)。
佐渡 家族ぐるみで20年以上のつきあいだから、いろんな思い出があるよね。