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詩人の再読の書。小池昌代さんに“迫ってくる”3冊の本(後編)

2018.10.02

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ことばの世界ーー詩歌のほうへ 第1回 小池昌代さん(詩人・作家)

「ことばの世界」 “作品は、まったく何もないところから生まれるものではなく、先行する文学作品の影響をさまざまなかたちで受けながら書かれるもの”とは、多くの書き手が口にすること。作家が立ち返る場所としての大切な本、繰り返し読んでしまう再読の書を挙げてもらいます。 小池昌代さんインタビュー(前編)はこちら>>>


表現行為の根はひとつ。そのものの真実を掴むという意味では、自分にとって、文章も、絵も、音楽も、変わらないという小池さんは詩だけでなく、小説も数多く手がけているが、飛躍が許される詩に対して、細部を書き込む努力の積み重ねが求められる小説は、地上のもの、と表現する。

――男性の詩人で小説を書く方は少ないですが、小池さんをはじめ女性の詩人は、小説も書く方が多いですよね。


私が宇宙の源を司るところの神なのだ、ではないですけど(笑)、女の人の場合、常にいくところ、“私”があって、全体的であり、さまざまな表現形態を持っていても、分裂しないでいられるんじゃないかな。私の場合も、詩も小説も、先程いったように根元がひとつという感覚がある。だけど実際は、詩から小説を書き出すのは大変なことでした。意識の上では、詩と小説に明確な線分けをして、徹底的に散文というものを書きたいとも思うのです。詩に引きずられている自分が、中途半端なのではないかと思っていて。

――詩や歌には定型があり、その枠のなかで吟味されるからか、詩人の方々の書く小説を読んでいると、ことばが研ぎ澄まされていると感じます。小池さんは、池澤夏樹さんが個人編集された日本文学全集で百人一首を口語訳されましたが、自身の創作に影響はありましたか。

古典に向き合ったことでとてつもなく世界が広がりました。和歌には危険なくらい魅力を感じています。歌人の恐ろしさに比べたら、詩人なんてまだ甘いんじゃないかとも。古語は日本語なのにわからないから、英語の辞書を引くように、古語辞典を引く。一首を読むのにも、背景から作者から、わからないことだらけです。母国語で書かれたものなのにこんなにわからない、でも読んでいるうちに少しずつわかってくる。それがうれしいんです。

――それだけ惹かれていると、ご自身で歌を詠もうという気になるのでは?

そこはまったく思いません。一線を引いて、純粋読者に徹しています。定型の詩歌は、もし始めたら、いいものをつくろうと夢中になるのが見えているので、やったら地獄ですよ(笑)。詩も、小説も、歌も、というのは、私の場合は強欲ではないかと自分を戒めています。ただ、古典全般は、広げて今後も読んでいきたいです。知識をつけたから読めるわけではないし、古に橋渡しをする直感力も必要でしょうが、もう少し歌を立体的に読むためにも、歴史的背景を含め、古典へのアプローチを続けるつもりです。古典のテキストそのものは変化しませんが、読み手の側は生きているから、同じ作品であっても知識や経験によって読み方が変わっていく。だからおもしろいんです。

――詩歌は読み手次第というか、自分がより関わろうと思えば、それだけ深く関わることができるのですね。

詩歌は地下から湧いてくる湧き水のようなもので、自分の経験に応じてそこから汲み出せるものが違ってくるのではないでしょうか。古典は限界というもののない、開かれた世界だと思います。



――では、SNS上のことばについてはどんなふうに受け止めていますか。

ツイッターには距離を置きたい気分ですが、インスタグラムは時々やっていて、思いがけない関係が生まれたりするので、無視できません。ハッシュタグといって、検索でかかりやすいようにキーワードを入れていくのは面倒ですが、つながろう、見てもらおう、と常に考えているわけで、今、こうしたツールを使わずに表現は成立しないと思います。その一方で、やはりソーシャルメディアが発することばには、うるささ、ざわつきがあると感じていて、一定の距離を保っています。SNS上にある他者の視線や気配、そこには温かさもとてつもない暴力もありますから。

――小池さんは詩の賞の選考委員も務めていらっしゃいますが、最近の詩にはどんな傾向があるのでしょうか。

ある時期まで、現代詩は先行する詩人へのアンチテーゼ、批評として書かれていましたけど、最近は批評の眼差しが弱まって、個々が好きに書いているという自由自在感が溢れているというか。これもいいけど、あれもいいと、だから評価がしにくくなっていますね。私の好きな詩人、飯島耕一は、自分が見ているものや社会に突きつける短剣を持っていて、彼の作品が今も古びないのは、その批評眼があったからだと思います。飯島さんには『港町 魂の皮膚の破れるところ』という作品があるのですが、彼のなかに、あらゆる属性やモラルを弾き飛ばす原初的なものがあったから、島や港町という魂がむき出しで在れる場所に向かったのではないかな、と。私自身、そういうカオスに返っていきたい気持ちでやってきたし、それが詩というものが持つ激しさで、だから詩への渇望は捨てられないです。

 
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