未来の医療 第11回 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。
前回の記事はこちら>> 京都大学の本庶 佑(ほんじょ たすく)氏らが2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞したことにより、大きな注目を浴びた免疫チェックポイント阻害薬。
承認されて日が浅いにもかかわらず、適用範囲が拡大しています。その効果や治療上の課題を、日本がん免疫学会理事長、国際医療福祉大学医学部長の河上 裕さんに聞きました。
〔未来を創ろうとしている人〕 河上 裕(かわかみ ゆたか)さん国際医療福祉大学医学部 医学部長 慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 特任教授
1980年慶應義塾大学医学部卒業後、国立大蔵病院内科、慶大医学部血液感染リウマチ内科を経て、85~97年に米国・南フロリダ大学、カリフォルニア工科大学、NIH国立がん研究所に留学。帰国後、慶大医学部先端医科学研究所教授、同所長、同大医学研究科委員長を歴任。2019年から現職。日本がん免疫学会理事長。ヒト疾患の免疫病態の解明と制御、特に腫瘍免疫学研究と免疫療法開発を専門とする。抗がん剤や分子標的薬が効かないがんにも効果を発揮
私たちの体内で働いている免疫はその作用が過剰になると自らの体を攻撃する恐れがあります。そこで、免疫にブレーキをかけるシステムが備わっています。このブレーキを作動させるときの一つの鍵になるのが免疫チェックポイント分子です。
本来、この免疫にブレーキをかけるシステムは私たちの健康に重要なのですが、一方で、がん細胞はこれを悪用し、自らが出す分子で免疫チェックポイント分子に働きかけ、免疫にブレーキをかけて、免疫の攻撃から逃げて生きのびようとします。
そこで、がんの治療戦略の一つとして、この免疫ブレーキをはずす薬が作られました。これが免疫チェックポイント阻害薬です。
「免疫チェックポイント」について詳しくは4ページ目を参照>>「ノーベル賞を受賞されたお二人の研究はもともと免疫チェックポイント分子も関係する免疫の調節作用を解明する基礎研究でした。それが薬の開発につながったことで、通常の抗がん剤が効かないがんの治療への道を開きました。また、薬の開発に加えて、免疫システムの解明が進みました。これらの研究成果は、がんだけでなく、やがてさまざまな病気の治療に生かされると思います」と河上さんはそのインパクトを語ります。
免疫チェックポイント阻害薬はがんを直接殺すのではなく、免疫を高める間接的な作用で効いているので、効果が比較的長く続くことも特徴です。