未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。今回は「市民や患者の医療や研究への参画」についてです。
前回の記事はこちら>> 医療政策の立案や医学研究の計画に患者や市民の参画が進んでいる
医療政策の立案や施行のプロセスにおいて、あるいは医学研究が行われる際に、患者や市民が意見を述べる場が増えています。
市民、患者、障害者の医療や研究への参画をテーマとして研究を進めている東京大学医科学研究所教授の武藤香織さんに、これまでの経緯や今後について聞きました。
〔未来を創ろうとしている人〕武藤香織(むとう かおり)さん1993年慶應義塾大学文学部卒業。95年同大学大学院社会学研究科修了(社会学修士)。98年東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻博士課程単位取得満期退学。2002年博士(保健学)取得。財団法人医療科学研究所研究員、米国ブラウン大学研究員、信州大学医学部保健学科講師を経て、07年より東京大学医科学研究所准教授、13年より現職。09年4月より同大学医科学研究所研究倫理支援室室長を兼務。政策や研究に患者や市民の意見が求められている
患者や市民は医療の受け手であるだけでなく、保険料や医療費を支払うことで医療制度そのものをささえる重要な立場です。
医療従事者が気づかない経験や知恵を持つ存在でもあります。また、医学研究においては、臨床試験などの参加者ともなります。
近年、医療政策の立案、あるいは医学研究において患者や市民が参画する場が増えてきています。
政府の審議会、検討会などには1990年代後半から患者や患者支援団体、消費者団体の代表者が患者委員、一般委員として参加するようになり、現在はさらに参画の場や役割が広がっています(以下参照)。
患者・市民が参画している場の例
【政策】
●各種の審議会
●検討会
●都道府県の地域医療構想の策定
●医療事故調査制度で調査報告を行う医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)の医療事故調査・支援事業運営委員会
●特定機能病院の医療安全業務に関する外部監査委員会
【検査・治療・検診】●ガイドラインの作成委員会
【医学研究】●大学・研究機関・企業の研究倫理審査委員会
●医学研究の計画・デザイン・実施・普及
武藤さんによると、政策担当者や医療従事者、研究者、研究資金提供組織には
(1)政策や研究に外部の視点を入れ、透明性を確保する
(2)サービスの利用者あるいは研究の参加者としての意見を聞きたい
(3)政策や研究のプロセスや結果が社会に受容してもらえるか知りたい
といったニーズがあるということです。
医療政策や医学研究における患者や市民とのかかわりには、下図のような段階があります。
医政策や医学研究への患者・市民参画のイメージ
英国の例。米国やカナダでは参画もエンゲージメントの一部とされている。http://www.guysandstthomasbrc.nihr.ac.uk/researchers/patient-public-involvementadvice/ppi-toolkit/what-is-patient-and-public-involvement/を参考に編集部で作成A:参画(Involvement)患者・市民が政策担当者や研究者とパートナーシップを結びながら、政策や研究の計画、デザイン、管理、評価、結果の普及にかかわる
B:エンゲージメント(Engagement)患者・市民が、政策の決定過程や決定後、研究終了後などに、政策担当者や研究者が出す情報や知識を共有して意見を出すこと
C:参加(Participation)政策が決まった後にその施行に参加する、あるいは研究の参加者になること
医学研究であれば「臨床試験への参加」だけでなく、さまざまな法律や制度などによって、一般向けに出す情報をわかりやすくするといった作業を担う「エンゲージメント」、
そして研究そのものの計画やデザイン等を吟味する「参画」と、今ではより上の段階に携わる機会が生まれつつあります。