『鉢木』は雪の上野国佐野を舞台にした能。零落した佐野源左衛門常世は、愛蔵の盆栽を焚いて最明寺入道時頼をもてなした。落魄武士の矜持と果報が描かれた能である。住みうかれたる古里の 松風寒き夜もすがら 寝られねば夢も見ず 何思い出のあるべき
選・文=大倉源次郎(大倉流小鼓方十六世宗家)
どれほどに追い詰められても美しい言葉、噓偽りのない言葉を探し続ける人は希望を失わない。
能『鉢木』には雪に見立てた綿を被せた松の作りものが出される。常緑の松は目出度さの象徴だが雪に埋もれているのは何を暗示しているのか......。
雪が解けるとまた美しい松の葉が、太陽の光に照らされる未来を予感させ、また雪に覆われた松の姿は、多くの言葉を秘する人の姿にも通じる。
共に良い歳を迎えたい思いを込めて起死回生の能『鉢木』の言葉を送ります。
『家庭画報』2021年12月号掲載。
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