句:河合隼雄選・文=山折哲雄(宗教学者)
お能では、「諸国一見の僧」というワキ役がでてくる。シテ役の亡者の口説きをただじっと聞いていて、最後になって美しい背中をみせて去っていく。
茶の湯でも、主人と客が対座して茶をのむ。ほとんど言葉を交わすこともなく、茶釜が立てる風の音を聞いている、庭前に吹く風とともに......。
いまはコトバが氾濫し、コトバ探しに夢中になり、コトバの中味が風化している時代。聞いて、聞いて、聞くことに徹する文化とその作法が、何ともなつかしく甦ってくる。
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。