本当の豊かさ宿る「昭和遺産」 第13回(全14回) 世の中は、デジタル化、スピード化が急速に進み、私たちの暮らしはますます便利で快適なものになりました。しかし、はたして私たちは幸せを手にすることができたといえるのでしょうか。私たちの暮らしはどこかで、大切なものを置き忘れてしまっていないでしょうか。義理人情に厚く、おせっかいで、濃密な人間関係に支えられた昭和という時代。どこか不器用でアナログな“昭和”を見つめることで、合理性一辺倒ではない、暮らしの豊かさを再発見していきます。
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花ふきん、手縫い雑巾
昔は家のすみに必ず1枚はあった、手縫いのふきんや雑巾。一針一針丹誠込めて刺された模様には、既製品にはない温かみと作り手の愛情を感じる。着古したTシャツやパジャマ、浴衣の袂。身辺の衣類は何でも活用できる。布1枚が第2の生命、第3の生命へと転生を繰り返す。折角の素材を無駄なく再活用を重ねる知恵は、地球環境問題の解決にもつながる。元祖リユース──手縫い雑巾、金継ぎ
もったいない
選/談・小山薫堂 (放送作家)稲刈りをした後、お米を食べるだけではなく、わらを使って草鞋を作り、使い果たしたら燃やして灰にして肥料に使い、また新しい農作物を育てる。それはサステナビリティであり、日本流にいうと、「もったいない」。
きものも使えなくなったら仕立て直したり、雑巾にしたり。昭和は物不足ということもあって、暮らしのなかでそういう精神が自然と取り入れられたのだと思います。
靴下雑巾
長年愛用したお気に入りの靴下も、ゴムがのびれば無用の長物。しかし、柄と遊んで一部を糸で刺せば、その形を生かしたユーモラスな雑巾に生まれ変わる。手織りの布が貴重だった頃の、生活の知恵だ。撮影/松井茂信節約という言葉もありますが、どこか我慢をしている感じがする。「もったいない」は、我慢ではなくて、そこに価値を見出すという積極的視点があると思います。それが何なのかと突き詰めると、ものへの愛なのではないか。
白磁茶碗 鯉江良二/作
「真っ二つに割れた、その割れ方があまりに見事だったので、直したいと思った」と持ち主の「黒田陶苑」社長・黒田佳雄さん。白磁に流れる鮮やかな金色が趣深い。欠けてしまった器を繕い、さらに大切に使い込み、愛でるのは日本人特有の美意識だろう。撮影/阿部 浩私も、金継ぎをした杯、汚れが目立たないよう藍染めしたポーチ、修繕しながら28年間乗り続けている車……など愛着のあるものを数多く持っています。そういうものは使うたびに気持ちがいい。愛情を注ぐものに囲まれて暮らす幸せを、感じることができるのです。
「#昭和遺産」の記事一覧 本誌が考える【昭和遺産】とは、昭和時代に生み出されたもの、もしくは昭和時代に広く一般に親しまれたもので、次世代へ継承したいモノ、コト、場所を指します。
『家庭画報』2020年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。