鎮座100年を迎える森の社を訪ねて 明治神宮100年目の美と森 第6回(全7回) 東京という都会の中心に位置し、荘厳な鎮守の杜と日本一の初詣参拝者数で知られる明治神宮。明治天皇と昭憲皇太后をお祀りし、創建されたのが1920年。戦後復興を経て今年は鎮座100年の節目となります。11月1日の鎮座百年祭に向けてさまざまな準備が行われてきました。それは明治神宮における美の再編ともいえます。この美の神域に美の源泉を辿り、新たな時代に向けてのメッセージを探ります。
前回の記事はこちら>> 御祭神の前の舞台に舞う
聖なる気配の美しき奉納
奉納とは祀る神様の御偉業を讃え、悦んでいただくための一つの形です。その形はさまざまですが、いずれも私たちの内なる美意識と無関係ではありません。
代々木の舞菊の天冠をつけた4人の巫女による舞。舞の途中で右肩を袒(ぬ)ぐと鮮やかな装束が露となり、花が咲いたような眩しさに包まれる。祭典の始まりを知らせる大太鼓が打ち鳴らされると、体の芯にまで響くどんという低音が振動とともに境内の空気が凜としたものに一変します。やがて祭典が進み、静けさが場を支配するなか、笙(しょう)と篳篥(ひちりき)、笛の音がゆったりと立ち上がると、そこに蕾が開くような華やぎがにわかに広がっていく──。明治神宮ではさまざまな奉納の形を目にしますが、神様を悦ばせるための歌舞、神楽には、場の空気を塗りかえる美の波動が感じられます。
特に、美しい装束で舞う巫女の姿は常に参拝者の足を止めさせます。例祭での代々木の舞、昭憲皇太后祭における呉竹の舞、祈年祭での浦安の舞、また一般の御祈願の際に舞われる倭(やまと)舞など、明治天皇の御製(和歌)に作曲振り付けしたオリジナル神楽が多いのが特徴。巫女の装束や天冠、髪型もそれぞれ異なります。明治神宮では巫女として奉仕できるのは6年間で、舞の稽古は2か月前に歌を覚えるところから始まり、様々な作法までも学ぶことで美の伝承をしているのです。
7月の明治天皇祭(明治天皇崩御の日の祭典)の舞は、やはり明治天皇の御製に作曲振り付けした明治天皇大和舞。宮司以下神職はみな白装束で、明治神宮の神職が一人、毎年順番で生涯一度だけ本殿御扉の前で、張り詰めた空気のなか厳かに美しく舞います。
11月23日の新嘗祭では、境内各所にその年の収穫への感謝を込め、野菜や果物の宝船や三方が飾り付けられ、お供えされる。 撮影/本誌・大見謝星斗昨年の本殿遷座祭の奉幣の儀では宮中に伝わる「東游(あずまあそび)」が奉奏されました。羽衣伝説に基づく国風歌舞(くにぶりのうたまい=日本古来の神楽)の一つで、特別な時にだけ奏されるもの。昭和33年の戦災復興の本殿遷座祭でも奉奏されました。
東游(奉幣〈ほうべい〉の儀)2019年8月11日、本殿遷座祭で行われた奉幣の儀では、東游が奉奏された。帯刀姿の舞人らの動きはゆったりとかつ力強く、巫女舞とは異なる凜とした美しさを見せた。 〔特集〕鎮座100年を迎える森の社を訪ねて 明治神宮100年目の美と森(全7回)
構成・取材・文/三宅 暁(編輯舎) 撮影/鈴木一彦
『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。