藤田美術館の新たな船出 新美術館で名品と遊ぶ (後編)国宝9件、重要文化財53件を含む約2000件という、私立美術館として国内随一のコレクションを誇る藤田美術館が一時閉館したのは、2017年6月。2020年8月に、待望の新美術館の建物が完成しました。早速、武者小路千家家元後嗣 千 宗屋さんと奥さまの麻子さん、谷松屋戸田商店の戸田貴士さんが竣工のお祝いに駆けつけました。
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「展示室前のこのスペースは、日本家屋の“土間”をイメージしました」── 藤田 清さん
藤田 清(以下藤田) お陰さまで新しい美術館が竣工しました。まずはいち早く皆さんに見ていただこうと思い、お招きしました。今日はお越しいただき、ありがとうございます。
藤田美術館 館長
藤田 清さん1978年、藤田傳三郎から数えて5代目にあたる藤田家4男として神戸に生まれる。大学卒業後、2002年に藤田美術館へ。2013年館長就任。現在は2022年のリニューアルオープンに向けて奮闘中。千 宗屋(以下千) おめでとうございます。出来上がりましたね。
戸田貴士(以下戸田) 建て替えが決まってから、大成建設さんとの定例会議に私も参加させていただきました。設計だけでなく現場の色々な声を聞き、皆で協力しながら細部まで自分たちで考えて進める、という雰囲気を身近に感じられました。
藤田 大変であり、面白くもありましたね。設計・施工をしていただいた大成建設さんは最初から最後まで本当に大変だったと思いますが……。
戸田 本当に細かく、電球ひとつからすべて検討していましたよね。
藤田 スピーカーなども、提案されたもので本当にいいのか、別のもののほうがいいんじゃないか、といったところからみんなで検討しました。キッチンカウンターも、実物大の模型をダンボールで作って当時の事務所に置いて、高さはどのくらいにしたらいいのかを検証したりして(笑)。
千 広間のあるこの空間は、屋根があるから建物の中ではあるけれども、展示室とはまったく別の空間ですね。半戸外のような感じがします。
藤田 美術館としては“蔵の空気感”を大切にしたかったので、展示室イコール蔵というイメージをもっていました。
でもそうすると、チケットを購入したお客さまにいきなり蔵に入っていただくことになってしまう。その前に、原っぱというか広場のようなものがあるといいのではないかと考え、この空間が生まれました。
僕たちは“土間”と呼んでいます。当初はガラスウォールなしで、本当に半戸外でもいいのでは?という意見もありましたが、試しに夏に屋外で定例会議をしてみたところ、暑くて5分ともたなかった(笑)。
千 麻子(以下麻子) 床がタタキなのも魅力的ですね。
藤田 タタキは、濡れると乾くときにガスが発生してしまうということで、美術館にはそぐわないといわれ、一度は諦めて石を敷くことに決めたんです。
ところが最終決定のギリギリの段階で、現場のかたから「実はずっと実験を続けていて、ガスが出にくいタタキの工法が見つかったので、タタキの案に戻しませんか」とご提案をいただいて。そのときは本当に感激しました。
千 私のように以前から親しんできた者にとっては、まったく新しい建物になったからこそ、ところどころで昔の扉や窓などが生かされているのを目にすると、再会を嬉しく感じます。
でも、この美術館はまだ完成していませんね。主役の美術品が展示室に収まってからが本当の始まり。展覧会を重ねて、新生藤田美術館のカラーをどう出していくのかは、館長の腕次第!
藤田 まあ、まずはいつものように一服しましょうか(笑)。