指揮者にとって60歳は、まだまだこれからといえる。今、指揮を始めた19歳の頃のように、「指揮がしたくてしたくてたまらない」と日々感じている。指揮は私にとっての天職。こんなにも夢中になれることを仕事にできるのは本当に幸せだと思う。─── 佐渡 裕 (指揮者)2020年12月、「家族のような存在」という兵庫芸術文化センター管弦楽団と、ベートーヴェン「交響曲第9番」を演奏。感染防止対策が徹底される中、待ちに待った来場者に渾身の熱演が届けられた。鳴りやまない拍手の中、感極まった佐渡さんの姿も印象的だった。佐渡 裕さんの手と指揮棒
懐も体も大きい佐渡さんは、手もやはり大きい。時には指揮棒を持たず、手だけで指揮することも。
指揮棒は特注品。最近よく使っているという下の3本は、全長約34.5センチ、「涙型」といわれるコルクのグリップで驚くほど軽い。いつも5本くらいを持ち歩いている。
佐渡 裕さんが情熱を注ぐ 若手音楽家の育成
音楽の魅力を伝える、被災地での演奏
佐渡芸術監督を囲む、兵庫芸術文化センター管弦楽団の皆さん。現在世界9か国の音楽家が在籍し、コーチにレッスンを受けるほか、プロとして定期演奏会に出演している。「未来の音楽家人生に大きな影響を与えるだろう3年間にするのがミッションです」と佐渡さん。※本取材は感染予防対策を徹底して実施いたしました。撮影の短い時間のみマスクをはずしております。「師である小澤征爾さん、バーンスタインは、
かつて、どんな者かも分からない若者の僕を
全力で応援してくれた。今度は僕の番。
彼らへの恩返しの意味もある。 ─── 佐渡さん」恩師レナード・バーンスタインから「私はじゃがいもを見つけた! 今ついている泥を落としたら、世界中の人が毎日聴くような音楽を創るだろう」と言われた佐渡さん。
じゃがいもとは、世界の多くの人が毎日食べるもの。その予言どおり、まさに音楽の魅力を多くの人々に伝える存在となりました。
「それが大きな使命であり、喜びでもあります。でも最初からそうではなかったんです。指揮者として成功したくて、がむしゃらに努力もしました。でも分かれ道に来たとき僕の手を引っ張って、引き上げてくれた人がいたからこそ、ここまで来られたと今は思うんです」。
偉大なる恩師への感謝を胸に、今、次世代の音楽教育や被災地での演奏に、精力的に取り組まれています。
特集「佐渡 裕 情熱の音楽人生」は全7回にわたってお届けします。次回は「阪神淡路大震災の復興のシンボル 兵庫県立芸術文化センターの芸術監督へ」と題して、芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターの取り組みを紹介します。5月7日配信予定。
〔特集〕日本が誇る世界的指揮者に密着 佐渡 裕(YUTAKA SADO)情熱の音楽人生
撮影/鍋島徳恭 武田正彦 編集協力/三宅 暁 取材・文/菅野恵理子 取材協力/兵庫県立芸術文化センター、兵庫芸術文化センター管弦楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、すみだトリフォニーホール、スーパーキッズ・オーケストラ
『家庭画報』2021年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。