今こそ、教養として知っておきたい アートという資産 第5回(全7回)今、日本では空前の現代アートブーム。投資を目的に購入する人も増えています。現代アートは本当に資産となりうるのでしょうか。そのためのノウハウを著名なコレクターやギャラリスト、オークションハウス、投資家など専門家に教えていただきました。
前回の記事はこちら>> 2020年12月に東京・天王洲エリアに開館した「WHAT」。現在開催中の展覧会で、日本を代表する現代アートコレクター高橋龍太郎さんが収集された作品が公開されています。この展覧会を高橋さん自ら、女優の鶴田真由さんをご案内いただきました。
今津 景『Swoon』(2018)の説明をする高橋さん。「膨大な量の画像や情報、写真などをコンピュータで構成し、下絵にする作家」。鶴田さんは「絵画の下描きも、今はドローイングではない時代なんですね」。奥はBIEN『Day For Night』(2019)「若手の才能の欠片を見つけ、支援する活動に感動しました」—鶴田真由さん
訪ねる人
鶴田真由(つるた・まゆ)さん女優。写真家小林紀晴さんとの共著により自身で撮影した作品が掲載された写真集『Silenceof India』(赤々舎)が好評。「若い作家を支援することで日本を元気にできたら嬉しいです」—高橋龍太郎さん
案内する人
高橋龍太郎(たかはし・りゅうたろう)さん精神科医、現代アートコレクター。所蔵作品は2000点以上におよび、国内外21館の美術館などで高橋コレクションが紹介されている。寺田倉庫が美術コレクターから預かり管理している作品を公開し、その魅力を広く発信する「WHAT」。オープニングを飾るのは、2名のコレクターの収集作品を紹介する『-Inside the Collector’s Vault,vol.1-解放されたコレクション』展です。
高橋龍太郎さんがお持ちの作品も30点展示されています。鶴田さんは高橋さんから解説を受け、展覧会を堪能されました。
すでに著名な作家の冒険に満ちた試みも展示。会田誠『ランチボックス・ペインティング』シリーズ(2016)。鶴田 先生の解説で絵の背景が見え、描き手の心情まで伝わってきました。倉庫に眠るものを時々見せてもらえるのは鑑賞者も、作品も、作家も嬉しいですね。
高橋 コレクターにとっても大きい場所に展示されるのは、誇らしい気持ち。倉庫に眠っているアートは、飲めないワインと一緒。皆で味わってこそのアートです。
左右の作品を比べながら鑑賞するユニークな作品。村山悟郎『学習的ドリフト(カラー/モノクローム)あなたがこの作品を観る順序を、わたしは制作の手順としてつくりなおす。』(2014)。鶴田 今回、若いかたたちの作品が多く、本当に素晴らしい活動だと思いました。
高橋 若手は最近10年間で購入した作品。まだ公式にはアートシーンに登場していない作家をアピールする場所にしました。
鶴田 若手は日本人だけですか?
高橋 若手に限らず、コレクションの99パーセントが日本人。僕はかつて学生運動で世界を変えようと思ったけれど、残念ながら変わらなかった。
それでも日本人の美意識は優れています。先日、香港の現代アート界の中心人物ハラム・チョウさんが、香港の美術館に寄贈した作品の作家13名のうち、8名が日本人でした。若い作家の世界挑戦にも望みを託したい。
鶴田 アートで世界を変えることができますね。
「夫の生徒だったので近藤さんは若い頃から知っていますが、やっぱり素敵ですね。初期作品は特にパワーがある」と鶴田さん。ページ下の鶴田さん像も同一作家による。近藤亜樹『ウータン山』(2010)。高橋 毎年約2万人が芸大、美大を卒業して、成功できるのは一学年で一人くらい。だから、作家は私にとって神様なんです。
鶴田 “買う”というのは、特別な行為なんですね。一度だけスイスのアート・バーゼルで、急に自分で買うならどれを買うだろうという目線になりまして、そのときの気持ちの変化がおもしろかったですね。
高橋 僕は、いつでも買うならどれだろうと思って見ます。作品に自分の感情を投影してかかわるので自ずと関係が深くなる。
鶴田 知人の個展を機会にギャラリー巡りをすることがありますが、今は、質のよいギャラリーが増えているので、購入する選択肢も広がっているように思います。
高橋 このWHATがある天王洲と六本木が大きな拠点。そこを丁寧に見るといいですね。最近、アートは資産になるかと尋ねられますが、まずは好きな作家と信頼できるギャラリストを見つけて、手堅い作品を購入すること。そうすれば後悔はしないと思います。
高橋さんの収集品は1階と2階で展示。2階で存在感を放つ緻密な高橋さんの肖像画。収集作品に同化する肖像画と対になる。委託制作による野澤 聖『Obsession-蒐集家の肖像-』(2020)。1階は女性作家の作品。手前から、水戸部七絵『DEPTH』(2015)。土取郁香(ふみか)『I and You(knock knockknock)』(2020)。鶴田真由さんのアートコレクション
鶴田さんのコレクションは、すべて知人から贈られた、大切な思い出の作品。鶴田さんのご主人である、東北芸術工科大学で学長を務める中山ダイスケさんの作品。近藤亜樹 白い夜 2013 ©Aki Kondo,courtesy of ShugoArts
中山さんの教え子である近藤亜樹さん作、鶴田さん像。A氏による奈良美智のコレクション
高橋さんともう1名、奈良美智作品にこだわる日本の実業家であり投資家「A氏」の収集品40点も展示。A氏は『Slash with a Knife』(1998)を玄関に飾り、毎日、絵の中の鋭い目の女の子を見て、自分も負けていられないと奮起して事業に成功したそうだ。実際にアートを身近に置くことで、作家が命を削って描いたパワーを感じたという。
Information
現代アートコレクターのコレクションと建築模型を展示する芸術の新拠点
WHAT
東京都品川区東品川2-6-10
入園料 | 一般1200円 |
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営業時間 | 火曜〜日曜11時〜19時(最終入館18時) |
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定休日 | 月曜(祝日の場合は開館し、翌火曜休館) |
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- オンライン事前予約制 寺田倉庫が、1975年より数十万点におよぶ美術作品を預かり保管するなかで、その価値を高め、魅力を広く知ってもらう目的で開いたアート拠点。2021年5月30日(日)まで、『-Inside the Collector’s Vault,vol.1-解放されたコレクション』展、『謳う建築』展を開催。コレクター自身の言葉による音声ガイドで作品鑑賞ができる。
〔特集〕今こそ、教養として知っておきたい アートという資産
撮影/本誌・西山 航 取材・文/小倉理加 スタイリング/平井律子 ヘア&メイク/赤松絵利 鶴田さん:ブラウス2万4200円 スカート4万8400円/ともにディウカ(ドレスアンレーヴ) イヤリング2万2000円/ドナテラ・ペリーニ(日本橋三越本店 本館3階ミグジュアリー) バングル4万4000円/ペリーニ(日本橋三越本店 本館3階ミグジュアリー) サンダル1万6500円/ダイアナ(ダイアナ 銀座本店)
『家庭画報』2021年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。