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祇園祭を彩る異国情緒あふれる【臙脂色】京都のいろ・文月 第14回

2021.07.21

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〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【臙脂色】
祇園祭を彩る、異国情緒あふれる色


文・吉岡更紗

7月に入ると、京都の街中は、祇園祭一色となります。今年も昨年同様感染症対策のため、山鉾巡行や神輿渡御(みこしとぎょ)は中止となり神事が中心となりますが、組み立て技術の継承のため、いくつかの山鉾が建てられることとなりました。お囃子の音も時折聞こえるようになり、2年ぶりに京都の夏らしい空気を感じることができます。


祇園祭は、疫病の流行を鎮める御霊会を起源としています。貞観11年(869)、鴨川の水害によって悪疾が流行したため、民衆が真木にひさかきの葉をつけた標山(しめやま)を立てて、神輿をかついで神泉苑に詣でたのが始まりとされています。
時代を経て祭りの形態は大きくなり、巨大な鉾や山が出現し、さまざまな芸能が行われ、それぞれが華やかさを競うようになります。

染織に携わるものとして、祇園祭で最も楽しみにしているのは、山鉾を飾る懸装品(けそうひん)の数々です。応仁の乱によって30年以上も行われることがなかった祇園祭が、やがて復興し華やかさを取り戻しつつある頃、世界は大航海時代に入り南蛮貿易によって、中国やペルシャ、インド、ヨーロッパの産物が堺などの港に渡来し、京都にも届くようになっていきます。山鉾を管理する鉾町を支える町衆は、渡来した絨毯やタペストリーを競って買い求め、山鉾の胴掛や前掛などの装飾に使うようになりました。

月鉾を飾る絨毯。写真/紫紅社

長刀鉾(なぎなたぼこ)にはイランで織られた絨毯や、今は現存しない中国の遊牧民が織ったとされる緞通があり、南観音山にはインドで染められた木綿の更紗が3種残されています。鯉山にはベルギーのブリュッセルからもたらされたタペストリーがあり、それはギリシャの詩人ホメロスが描いた『イリアス』の一場面が、ゴブラン織りと呼ばれる綴で織り込まれています。

それらの織物は赤が多く、渡来した赤の鮮やかな色彩が、山鉾の装飾にふさわしいと考えられたのではないかと思います。その中には茜や紅花などの染料が使われたと思われるものもありますが、日本では採ることのできないラックを使った絨毯が月鉾に残されています。イスラム文化の影響を色濃く受けたインドのムガール帝国のラホールという街で織られたその絨毯には、円形のメダイヨンと花葉の文様が表されています。

ラック。写真/吉岡更紗

ラックとは、インドやブータンなどで、ラックカイガラムシの雌虫がイヌヤツメやライチなどの樹皮に寄生して樹液を吸い、体外に分泌液を出して住まいとしたものです。虫はその後、繁殖のために移動するので、古い住まいとなった巣は採取され、艶出しの塗料として、また赤い色素は薬物や染料として使われていました。日本にも古くからもたらされ、正倉院にも現物が残されています。絵画や染織品に使われたこのラックの持つ独特な青みのある赤は、今も鮮やかな色を残しています。

ラックは「臙脂虫(えんじむし)」とも呼ばれ、かつては紅花で染められていたものが「臙脂色」でしたが、いつしかラックで染められた赤を「臙脂色」と呼ぶようになりました。日本では採取することのできないラックで染められた糸で織られた絨毯は、異国情緒あふれる文様とともに祭に鮮烈な彩りを添えたのです。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka


「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/
【好評発売中】


更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。

協力/紫紅社
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