パンデミックの時代が求める音楽 ワルツの熱情 第7回(全12回) 明と暗が表裏一体となったワルツの底知れない魅力を訪ねます。
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「ウィーンのもつ芸術には独特なものがあります」と語るフリーダーさん。個人的にもカフェでくつろぐひとときを好む。ラファエル・フリーダーさん(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/チェロ奏者)が語る「ウィンナー・ワルツのリズム」
カフェ・ドムマイヤー(Cafe Dommayer/現・オーバラー店の経営)は100年ほど前、元カジノの後方であるここに開店した。シュトラウス2世のキャリアがこの地から始まったことが銘板に書かれている。「カフェ・ドムマイヤー」は、シェーンブルン宮殿に程近い緑の多い場所に位置しています。ヨハン・シュトラウス2世は「カジノ・ドムマイヤー」(現・パークホテル・シェーンブルンの内部)で18歳の時にデヴューし、一夜にして有名人になりました。
ヴァイオリンの弓をもち指揮をする、フォルクスガルテンでの若い時のシュトラウス2世のイメージ画。©Wien Museum/Brigit und Peter Kainzウィーン生まれのウィーン育ちであるラファエル・フリーダーさんは、地元のワルツをどのように捉えているのでしょうか。
「何がウィーン的か、そして独特のこのワルツのリズムのことはよく聞かれます。私自身もなぜこのようになるのかを考えたことがありました。ウィーン・フィルメンバーには現在他国籍の人も多く入団していますが、たとえばドイツ人と一緒に弾いている時にも、このリズムになると『あ、何かが違う』と感じますが、以前スイスの楽団で弾いていた時にも周りとは微妙に違う自分でも気づかなかったのが、自分のもつこのウィンナー・ワルツのリズム感でした。
私にとってはごく普通のことで、学んだわけでもなく、どうしてかと聞かれれば、自然に自発的にそのように弾いていた、としかいいようがないのです」。
ニューイヤーコンサートでも最後に必ず、演奏される「美しく青きドナウ」、この合唱曲版は、同じウィーン生まれでも内容が好きではないメンバーもいます。
でも「私自身は12歳の時に、ヴァイルの合唱曲版で歌い、オーケストラ版よりも早く知ったのです。即座にその歌詞のもつ辛辣な意味がわかりました。この中に現れている世の矛盾や、人間のもつ裏表二面性の表し方、捉え方。そしてそれをワルツで表現したことがとてもウィーン的だと思うのです。
この白黒で表せない部分が芸術ですし、特にその当時は、それが芸術面で最も熟していった時でした。それはグスタフ・クリムトや後のエゴン・シーレの絵画にも表れています」。
撮影/シモン・クッパーシュミート ウィーン取材コーディネート・取材・文/武田倫子 編集協力/三宅 暁(編輯舎)
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。