生誕210年を迎える永遠のオペラ王「ヴェルディ」の魅力 第7回(全8回) イタリアに生まれ、“オペラの変革者”として音楽界に計り知れない影響を与えた作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディ。彼の構築的でドラマティックな音楽は、聴衆はもちろん、世界に名だたる指揮者、歌手、演出家をも魅了し続けています。アニバーサリーイヤーを祝し、不世出の奇才の深い魅力に迫ります。
前回の記事はこちら>> オペラ愛好家・檀 ふみさんが綴る ヴェルディへの恋文
オペラに造詣が深く、ヴェルディをこよなく愛する女優でエッセイストの檀 ふみさん。熱き想いをしたためてくださいました。
写真/amanaimages“ああ、ヴェルディ様!”
オペラと恋に落ちたのはいつ?
そう聞かれれば迷わずに、プラシド・ドミンゴ演ずる『オテロ』を、ヴィデオで何気なく見ていた30年前と答えます。
ヤーゴの囁きによって、最愛の妻デズデモーナの貞節を疑い始めるオテロ。ドミンゴの熱演に、「オペラって芝居でもあるのか!?」と、衝撃を受け、まずはドミンゴの追っかけを始めました。
その追っかけの途上で出会ったのが、『リゴレット』でした。といってもドミンゴが出演していたわけではなく、せっかくミラノまで来たのだから、後学のためにスカラ座を覗いてみようか……くらいの軽い気持ちでした。これも、衝撃でした。美しい舞台。めくるめくような音楽。劇場いっぱいに満ちた熱気。「なんで、もっと早くにここに連れてきてくれなかったの!?」と、スカラ座の前で地団駄を踏んでしまったくらいです。
ずっと、ドミンゴとスカラ座が、私をオペラに引きずり込んだのだとばかり思っていました。でも、よく考えるとちがうのです。
ヴェルディ様、あなた様の作品だったからなのです。あなた様でなかったら、ここまで心を奪われることはなかったでしょう。
いっとき、オペラから意識的に遠ざかったことがありました。それも、あなた様が原因でした。車の運転をしながら、本を読みながら、あなた様の音楽ばかり聴いていたら、「血」だの「呪い」だの「復讐」だのと、なんだかとんでもないオペラ頭になってしまって、心の健康に悪いような気がしてきたからです。
でも、それも長いことではありませんでした。それどころか、戻るとますますオペラに深入りするようになっていました。
そういえば私は、あなた様のお生まれになったロンコーレ村を訪ねておりますし、あなた様が音楽を学んだブッセートの町にも詣でております。美しいジュゼッペ・ヴェルディ劇場を拝見したときには、こんなこぢんまりした空間であなた様のオペラを聴けば、あなた様を独り占めにする気分になれるだろうと、切ないくらいに憧れたものです。
ああ、ヴェルディ様!
たったいま、気づきました。あなたなのです! あなた様のオペラがこの世になかりせば、私がこれほどまでにオペラに夢中になることはなかったでしょう。
私の30年を豊かに満たしてくれたオペラに感謝。あなた様に、心の底より感謝申し上げます。
檀 ふみ(だん・ふみ)
数多くの映画、ドラマに出演する一方で、音楽や美術、古典を伝えることにも力を注ぐ。オペラをこよなく愛し、コロナ以前は年に10~20公演はチェックしていたが、この頃はご無沙汰。そろそろ再開しようと思案中。オペラ好きを見込まれてか、新国立劇場の評議員を務めている。 編集協力/三宅 暁(編輯舎) 取材協力/日本ヴェルディ協会 市浦純子
『家庭画報』2023年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。