谷松屋戸田商店 季節の茶花 谷松屋十三代目当主の戸田 博さんが、茶席の花について語ります。4月の花は「袋藤(ふくろふじ)」です。
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炉の終わりを迎える頃
語り/戸田 博
茶の世界では、季節が移りゆくそれぞれのタイミングで、ふさわしい道具を考えていくことが、醍醐味の一つです。現在、茶の湯には季節によって炉と風炉の2季がありますが、古くは一年中風炉を用いていました。
千利休が炉の点前を定めたことから、侘び茶は炉が中心と感じていらっしゃるかたも多いと思います。なかでもいちばんメインの月は11月で、茶の正月とも称される口切りがあり、それが終わると本格的に炉の季節に入ります。そうして春先まで炉で遊ぶのです。
4月は炉の最後の季節、風炉の手前の変わり目の月。炉という一つの様式が終わっていく時季で、私は結構この月が好きです。少し名残惜しく、それでいて次の季節を迎える前の高揚感。何かが変わる節目というのは、道具に対してもメッセージ性を持たせやすいのです。
そして、一般的には4月は始まりの月でもありますから、面白いものが使えます。といいつつも、私は4月が終わってからの風炉の季節も好きですが。風炉には茶を次の炉につないでいくという感覚があり、自由に遊べる軽やかさがあるからです。
胴に龍が巻きつく古銅花入に、気品ある堅い蕾、力強い幹の藤のひと枝を袋藤(ふくろふじ)
古銅薄端巻龍花入(こどううすばたまきりゅうはないれ)
広間の床の間。一休宗純の墨跡に合わせて、古銅花入を矢筈敷板に据え、藤の堅い蕾を入れる。「袋藤」とは、藤の花房がまだ袋状のものを指す。通常、藤は風炉の花とされるが、この袋藤だけは炉の終わり頃の花として珍重される。今月は広間で薄茶一服のしつらいから始めようと思います。床の間には、一休宗純の三行書を掛け、古銅花入を出してきました。
このように、まず書を決めて、それに合う花入を考えて、それから花を決めるということはよくあります。花を担当する小林 厚は、これらの道具にふさわしい一花として、藤の蕾を選んだようです。添えの花はなく、藤1種で潔く勝負したのですね。
枝ぶりが面白い藤の花を古銅の薄端花入に。躍動感と静謐さを併せ持つこの花を生かすために、必要のない枝を落としていく。客人が対面したときに、まるで花がせり出してその人に向かってくるような強い枝ぶり。たしかに堂々とした幹に萌えたばかりの若い葉、堅い蕾をたたえた気品あるこの藤花に添えなど必要ありません。1種で季節感も存在感もある。
先月の椿の花もそうですが、茶の湯では生命のエネルギーを秘めた花の蕾を重んじます。
これから花開こうとする藤の蕾は、炉から風炉へ、春から夏へと移り変わるこの季節の茶花にふさわしい。薄茶のしつらいながらも、重厚感のある道具組みには濃茶席の気分もあり、炉の終わりを藤の花とともに静かに味わう取り合わせとなりました。
〔ワンポイント〕花留めの工夫
「太い枝を一本まっすぐに立てる」場合
太く立派な藤の枝をまっすぐに立てるための工夫として、後ろ側に添え木をする方法です。適当な太さの別の枝をぴったりと枝に添わせて支えることで、ぐらつきをなくし、安定して花を留めることができます。