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歌人の思考回路。穂村 弘さん、短歌は本当に面白いものですか?(前編)

2018.10.09

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ことばの世界――詩歌のほうへ 第2回 穂村 弘さん(歌人)

「ことばの世界」 ハードルが高い、入り口がつかめない……そんな印象を持たれがちな詩歌というジャンル。けれど、単純には割り切れない感情や思いをつかむ詩人、歌人のことばは、読者を遠くへと誘う力を秘めています。彼らは世界をどうとらえているのか。その作品と肉声を通じて、詩歌の魅力に迫ります。


短歌のことはよくわからないけれど、穂村 弘さんの短歌は知っているし、その文章のファンだという人は、きっと少なくないと思う。

2002年に刊行された『世界音痴』、『現実入門』、『整形前夜』、『絶叫委員会』、講談社エッセイ賞を受賞した『鳥肌が』など、絶妙なタイトルのエッセイ集には、多くの人が“そういうもの”として大意なく受け入れる、あるいは受け流していることの意味を問う視点が通底している。惰性によらずに世界を見ることは口でいうほど容易ではなく、だから私達は穂村さんが書くものを読むと、笑いながらも、ハッとさせられるのだろう。


2018年5月に刊行された『水中翼船炎上中』は、穂村さんにとって4冊目の個人歌集となる。前作『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』から17年。

“何度も編みかけては失敗しているんだよね。ほかの本をつくるのとは全然違うから”という歌人の話は、子ども時代や両親のことも歌われた、本作の主題でもある昭和から現在という自分が生きた時間から、散文と韻文の違い、そして短歌と笑いの共通点へと広がった。

 

何もせず過ぎてしまったいちにちのおわりににぎっている膝の皿

ゆめのなかの母は若くてわたくしは炬燵のなかの火星探検

海に投げられた指輪を呑み込んだイソギンチャクが愛を覚える

 

――『水中翼船炎上中』、17年ぶりの個人歌集ということに、ちょっと驚きました。

短歌の本の場合、数百の歌をどう並べるか、それ以前にどの歌を入れて、どれを落とすか、タイトルをどうするかということが、散文の本よりも有機的に絡まっていて。たとえば『野良猫を尊敬した日』というエッセイ集は、野良猫の話はひとつ入っているだけだけれど、散文の本では、そういうタイトルのつけ方を、作者も読者も特に変だとは思わない。でも、歌集ではひとつの小宇宙を象徴するタイトルが望ましいとか、そういうことを考え出すと、なんとなく心理的なハードルが上がってしまって、たどり着くまでの道のりが遠くなりました。



――20年以上にわたり、さまざまな状況でつくられた歌をどう編まれたのでしょうか。

テーマは時間、それも自分が生きてきた昭和中期から現在までに流れた時間、ですね。それは自分のなかに、ある一定の時間や変化が蓄積されて初めて見えてくるもので、20代では書けないものです。もともと自分たちの時代や世代がどうなってゆくかということへの関心があって。戦争を経験した世代、学生運動世代の後、日本が平和になってから生まれた僕らは、高度経済成長期に子ども時代を、バブル期に青春を過ごした世代です。戦争や学生運動を経験した世代が否応なく価値観の転換を迫られたのに対して、自分たちにはそういう価値観の手のひら返しは起こっていないと思っていたけど、決してそんなことはなくて。それがどういうことか、単純にいえば、みんなでユートピアをつくるつもりがいつのまにかディストピアになっていた、みたいなことで、科学ということばが典型的ですけど……。

 

おいしいわいいわかるいわすてきだわマーガリンを褒めるママたち

ラジオ体操聞きながら味の素かきまわしてるお醬油皿に

ググったら人工知能開発者として輝いていたキャロライン洋子

 

子ども時代には、味の素は夢の調味料で、かけると頭がよくなるといって、何にでもかけていた記憶があるし、マーガリンは未来のバターという触れ込みだったけれど、最近、ラーメン屋さんでも無化調系といって化学調味料を使っていないことをアピールしている。マーガリンも人気がない。あと、大きな話でいえば、原発ですよね。学校で配られたパンフレットに原発の安全性は99.999999……パーセントと大きく書かれていて、子ども心にすごいなと思ったけれど、あれは嘘だとわかってしまった。当時、僕が見ていたアニメ、『鉄腕アトム』『宇宙少年ソラン』『科学忍者隊ガッチャマン』などは、科学の夢と未来を感じさせるものが多かったし、『鉄腕アトム』のキャラクターにアトム、ウラン、コバルトと放射性元素の名前をつけられているのも、当時はそれが輝かしいものだったからだよね。
でも、高度経済成長期やバブル期が終わり、地下鉄サリン事件とか、震災とか、それまでの価値観が段階を経て少しずつ、ボロボロと崩れていった。それだけじゃなくて、当時の予想では、21世紀には火星や木星にも行っているはずだったけれど、あるときからそういうベクトル自体が弱まった。そんな風に、子どもの頃感じていた輝かしさと、それが反転していく感覚を自分なりに検証してみたいという気持ちはありました。

――マーガリンやアトムということばが、善悪とは別にある時代を象徴しているという……。

善悪じゃないんだよね。僕らが子どもの頃、活躍していた子役のタレントさんで、キャロライン洋子っているんだけど、ある時、彼女が今どうしているかと思って検索したら、AI研究者になっていて。AIというのが今的で、そういう何か変わったなって感じることも書いてみたかったんです。

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