美と静寂に出会える新名所
知的好奇心を満たす美術館、美しい障壁画を堪能できる寺院......。静かに美と対峙できる京都ならではのアートスポットは、私たちの心を潤してくれる特別な場所。
まずは、嵐山の新名所と呼ぶにふさわしい美術館から、誌上初公開となる名画の数々をご紹介します。
【福田美術館】
嵯峨嵐山で日本美術の名画を堪能する──[福田美術館]
《群鶏図押絵貼屛風》伊藤若冲 紙本墨画 江戸時代群鶏図押絵貼屛風(ぐんけいずおしえばりびょうぶ)鶏のさまざまな姿態を伸びやかに描いた若冲晩年の作品。ガラスケースはドイツのグラスバウハーン社の特注品。
92パーセントという高透過率で、ケースの奥行きも比較的狭いため、作品と直に対峙するかのように鑑賞できる。
【誌上初公開!】希少な若冲作品がここに
江戸時代から近代にかけての主要な日本画の作品を所蔵する「福田美術館」。ことに伊藤若冲のコレクションには、目を見張るものがあります。
2020年3月20日からの展覧会に先駆けて、初公開の作品を特別に誌上公開いたします。
《雲中阿弥陀如来像》伊藤若冲 絹本墨画 江戸時代雲中阿弥陀如来像(うんちゅうあみだにょらいぞう)雲間から現れた阿弥陀如来を、青みがかった墨のみで表現した若冲の中でも希少な作品。阿弥陀如来にしては珍しく、牡丹の花を手にしている。
光背や雲は、輪郭の外側に墨をぼかす「外そと隈くま」という手法で描かれている。
《鳳凰乃図》伊藤若冲 紙本墨画 江戸時代鳳凰乃図(ほうおうのず)若冲特有のユーモラスな表情を浮かべる鳳凰を描いた、40代頃の作画と見られる作品。
胴まわりがふっくらとした羽毛には、若冲オリジナルの「筋目(すじめ)描き」という手法が用いられている。
《盧葉達磨図》賛/大田蜀山人 画/伊藤若冲 紙本墨画 江戸時代盧葉達磨図(ろようだるまず)一葉の葦に乗り揚子江を渡ったという達磨の姿を若冲が描き、9年間座禅を組み、悟りを開いたという故事にかけて、蜀山人が狂歌「九年酒の つまり肴の座禅豆 外に本来 一物もなし」を賛として寄せた作品。
《蕪に双鶏図》伊藤若冲 紙本著色 江戸時代若冲最初期の注目作、現在修理中
蕪に双鶏図(かぶにそうけいず)最近発見され、若冲の極めて最初期の作として注目を集めた作品。修理中のところを特別に許可を得て撮影した。
裏打ちし直すことで紙の折り目が伸び、奥行きのある美しさが甦った。2020年3月20日からの展覧会で初公開される。
大堰川と渡月橋を見渡せる館内のカフェは、入館者のみ利用可能な特等席。深い軒と庭の水盤がさらに美しい景色を演出する。設計は、東京工業大学教授でポーラ美術館などを手がけた安田幸一氏。ドリンクのほか、パニーニなどの軽食も。嵯峨嵐山の自然に溶け込む新たな文化エリアに注目
近年世界的な人気を集め、大いに賑わう嵯峨嵐山。
渡月橋にいたる目抜き通りから一筋奥に入れば、平安時代から貴族の別荘地として愛されてきた歴史が宿る、しっとりと落ち着いた佇まいの街並みが現れます。
“大堰川(おおいがわ)エリア”ともいうべきこの地が今、生まれ変わろうとしています。
その中心となるのが、2019年10月、大堰川沿いにオープンした「福田美術館」です。
《宝珠(ほうじゅ)と小槌(こづち)》
伊藤若冲 紙本墨画 江戸時代
たっぷりと墨を含んだ筆で、一気呵成にきっぱりと描かれた宝珠(左)と小槌(右)。若冲が好んで描いたモチーフで、初公開の本作のほか、展覧会では薄墨を用いた《小槌に宝珠図》も公開される。京都に生まれ育った実業家の福田吉孝氏が、地元への恩返しとして美術館の設立を決意し、15年の歳月をかけて美術品を収集。
主に江戸時代から近代の主要な日本画家で構成される約1500点のコレクションを築きました。
特に力を入れているのが、円山応挙、与謝蕪村、そして伊藤若冲をはじめとする、江戸時代に京都で活躍した絵師たちの作品。
さらに横山大観、上村松園、竹内栖鳳(たけうちせいほう)などの近代の名画、国内有数の竹久夢二コレクションへと続きます。
大きな特徴といえるのが、“幻の名画”と呼ばれる作品の多さ。展覧会では、学芸課長の岡田秀之さんが確かな目と熱意で掘り起こし、探し当てた初公開の作品が目玉となり、渡月橋の眺めとともに訪れる人を楽しませます。
《雪女》
上村松園 紙本墨画(一部彩色) 大正時代
京都に生まれ育ち、女性初の文化勲章を受章した松園の未公開作。近松門左衛門没後200年に出版された『大近松全集』の付録木版画の原画で、浄瑠璃『雪女五枚羽子板』の一場面を描いている。『美人のすべて』展にて初公開。「明治から昭和にかけての大実業家が築いたコレクションを展観する数多くの私立美術館を見習って、少しでも社会のお役に立つ美術館を目指したい」と岡田さん。次にどんな作品が飛び出すのか、注目です。
徒歩圏内には、小倉百人一首や日本画を展示する「
嵯峨嵐山文華館」があり、歴史的建造物をリノベーションしたカフェもオープン。
さらにホテルの建設も進んでいると聞けば、ますますこのエリアから目が離せません。
学芸課長 岡田秀之さん関西学院大学大学院文学研究科前期課程修了後、MIHO MUSEUM学芸員、嵯峨嵐山日本美術研究所学芸課長を経て現職。近著に『かわいい こわい おもしろい長沢芦雪』『いちからわかる 円山応挙』がある。【展覧会情報】
『若冲誕生
~葛藤の向こうがわ~』
2020年3月20日(金・祝)〜6月21日(日)初公開となる《蕪に双鶏図》(
こちら参照>>)をはじめ、動物をモチーフとした作品から仏画にいたるまで、そして最初期から晩年までの作品を幅広く展示。未公開作品約30点を含む50点以上という充実した内容を通じて、家業と画業のはざまで葛藤した末に到達した若冲独自の絵画表現を俯瞰できる。若冲に影響を与えた18世紀の絵師たちの秀作も公開。
京都府指定有形文化財「旧小林家住宅」をリノベーションした「パンとエスプレッソと嵐山庭園」は、美術館から徒歩3分。築210年という茅葺き屋根の趣のある空間で、焼きたてのパンが味わえる。パン5種にハム、チーズ、サラダ、カヌレなどのスイーツ類、ミニジュースとドリンクがついた「ブランティーセット」2300円。パンとエスプレッソと嵐山庭園住所:京都市右京区嵯峨天龍寺ノ馬場町45-15
TEL:075(366)6850
営業時間:8時~18時(LO17時)
定休日:不定休
URL:
https://bread-espresso.jp/shop/arashiyama-cafe.html●京都の記事一覧はこちら>>