不安な時代を乗り切るメッセージ「心をつなぐ言葉」 最終回(全7回) 当たり前だと思っていた日常や、世界の情勢はどうなっていくのか―。家庭画報ではそんな時代を生き抜くため、“心をつなぐ”をテーマに、そのヒントを探しました。見えてきた一つのキーワード、それは「思いやり」です。識者のかた、それぞれが考える、私たち一人一人に求められる「思いやり」を紐解いていきます。
前回の記事はこちら>> 「四季の美しさを再び感じる日を信じて」
ヴァイオリニスト・五嶋みどりさん
五嶋みどり(ごとう・みどり)さん1971年大阪府生まれ。ヴァイオリニスト。11歳でニューヨーク・フィルハーモニックとの共演でデビュー。以降、世界の主要なオーケストラとの共演やリサイタル、室内楽と幅広く活躍。現在カーティス音楽院で教鞭をとり、92年に設立したNPO「ミュージック・シェアリング」(日本)、「Midori & Friends」(米国)を率いる。2007年、国連平和大使に任命される。家庭画報の読者の方々へ
皆様いかがお過ごしですか。このお便りが届く頃は、しっかり根の張った稲のみどりを波打たせる初夏の風がそよぐ、もしかしたら紫陽花の花が降り続く雨さえも幾つもの彩で謡う、そんな日本の平和な景色を眺められる日々だと信じています。
私が演奏旅行からNYに帰った時には既に“新型コロナウイルス・コビット19”が食指をうごめかし、見る見るうちに世界を相手取る敵は、人々の生活を喰い潰すだけでなく、人格も奪い続け膨れ上がり、私はといえば、ビルディングの片隅で、無力感を忘れるべく何かを必死で探していました。
友人たちとテレビ電話やZoomでアイデアを出し合って、子供たちに送る動画メッセージ作りに没頭したり、戦いの後にこれぞと聴いていただける演奏をと以前に増しての練習に励みました。何と時間が好き放題に流れていたことでしょう。
そうする内に、だれもが強く一致団結して今日があり、命を懸けて働いてくださった医療関係の方々に感謝する気持ちを決して忘れることが無いことを痛感したのです。
「3密(密閉、密集、密接)を避けましょう」 イラスト/Charles Danzigerそれでも、例年6月に行っていた日本のNPO「ミュージック・シェアリング」の活動の一環である、選び抜いた若手の演奏者とカルテットを組んで演奏する高齢者施設、小学校、病院での訪問コンサート、また、日頃浄財をご寄付くださっている方々に、半年前に訪れたアジア(カンボジア)の報告コンサートを楽しんでいただける機会を失ったのは、身のそがれる思いだったと吐露するのを許されたいと思うのです。
時に形を変えて人類に挑む悪霊が現れたならば、己の無力さを謙虚に受け止め、人間だからこそ持つ友を尊び、感謝する心を忘れず、何かにしがみつくように多くの命の冥福を祈りながらも、自分のできることから我儘に目をそらさない。
そして四季の美しさを目の当たりにできる日を信じれば、巻雲と色づいた稲穂が地平線をくっきり浮かび上がらせる向こうに、厳しい冬が来ることすら美しいと心に響く私たちが生き続けるのだと、自分なりに考えるところです。
【A Message From Midori】
五嶋みどりさんからのメッセージを
動画でご覧いただけます
「新型コロナウイルスの被害者、そのご家族、それにまつわる被害にあわれている方々にお見舞いを申し上げます。そして救援に尽力される人々に敬意を捧げます。世界中に新型コロナウイルスが影響している今日この頃、私はアメリカ政府の緊急事態宣言で人通りもまばらなマンハッタンに当分いることになりました。この公共メッセージは既に私のFacebookなどにアップしていますが、友人たちの協力を得て作成いたしました」(五嶋みどり)
A Message from Midori(1)
A Message from Midori(2)
〔特集〕不安な時代を乗り切るメッセージ「心をつなぐ言葉」(全7回)
『家庭画報』2020年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。