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松の“緑”に新年の清々しさを感じて【常磐色】京都のいろ・睦月(1)

2021.01.06

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〔新連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。

睦月(1)【常磐色(ときわいろ)】
清新さをたたえる「松」の緑


文・吉岡更紗

冬の寒さは日ごとに厳しくなっていき、また新型コロナウイルスの影響もまだまだ緩むことなく、心休まらぬ新年を迎えています。それでも新年の節目を新たに迎え、少しでも明るい色どり豊かな一年になることを祈るばかりです。


写真/伊藤 信

秋が終わりを告げると、楓など紅葉していた葉が一枚一枚と落葉していき、京都は長い冬を迎えます。三方を山に囲まれた盆地である京都は、底冷えするため身体の芯から冷える感覚に襲われます。家の中にこもりがちな季節になりますが、一歩外に出ると、空気は澄んでいて、透明感のある空の色も、雪を冠した北山の稜線の重なりも美しく映え、冬ならではの美しさに出会うことができます。

時おり雪がちらちらと降る時は、空に雲がかかる、そうした冬の情景が広がります。そんな色彩の乏しい寒さの中にも、お正月を彩るにふさわしいものとして松と竹と梅があります。古来、中国では「歳寒三友(さいかんさんゆう)」とよばれてきた、私たちの空間に彩りを見せてくれる緑と赤の色彩をもつ3つの植物です。

写真/伊藤 信

その三友の中の一つ、常緑樹である松は、年中美しい緑をたたえています。色濃く深い葉の色は「常磐色(ときわいろ)」と名づけられています。ほかにも、「松葉色」や「千歳緑(ちとせみどり)」があります。

松の名は、神がその木に降りてこられるのを「待つ」ということから由来されている、といわれていますが、四季折々、季節が移り変わるなかで、葉の色が変わらないことから「常磐」や「千歳」など永久不変であること、そして長寿を象徴するような名がつけられたのでしょう。

京都の正月に欠かせない根引き松。撮影/伊藤 信 撮影協力/花屋みたて

平安時代より、宮中ではお正月の初の子(ね)の日に「小松引き」を行っていました。若松の根を引き、その根の長さや太さで吉凶を占う遊びでもあり、また長寿を願ったともいわれています。京都ではその「根引き松」を白い和紙で包み、紅白の水引を結んで、玄関に飾る習慣が今も残っています。

紅花で染めた屠蘇袋。写真/伊藤 信

また、お正月にはお屠蘇(とそ)を飲む習慣があると思いますが、桂皮、山椒、丁子などの薬草を調合して一晩お酒につけておき、元旦にいただくものです。かつては、その薬草を紅花で染めた袋に入れていたと言われています。薬草の香りの強さを柔らかくするために、先に井戸水に浸けておいていたそうで、その後にお酒に浸すほうが、薬草の効能が身体の中で緩やかに広がるのかもしれません。また、袋を染める紅花自体にも身体を温め、血行を促し、血圧を下げる効能があると言われていますので、お屠蘇を飲むことで心身を大切にする、という思いが込められていたのだと思われます。

お正月の膳には紅白の美しい彩りが添えられ、庭には白く淡い雪が残り、紅梅は芽が少しずつ膨らみ、常磐の松と青竹の緑。静かな年明けにも、こうした自然の色の美しさが広がりますように。

平安時代の貴族たちは、衣の表地・裏地の色の取り合わせや衣を重ねた配色で、四季折々の自然を表現した。その作法は「襲(かさね)」とよばれ、貴族が身につけるべき教養のひとつとされた。写真は、吉岡さんが染めた布で「松の襲」を表現。松葉の緑の濃淡と、紫は幹の色を表している。 写真/小林庸浩

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka



「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/
【好評発売中】


更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。






特別展「日本の色 吉岡幸雄の仕事と蒐集」

染色史の研究者でもあった吉岡幸雄さんは、各地に伝わる染料・素材・技術を訪ねて、その保存と復興に努め、社寺の祭祀、古典文学などにみる色彩や装束の再現・復元にも力を尽くしました。本展では、美を憧憬し本質を見極める眼、そしてあくなき探求心によって成し遂げられた仕事と蒐集の軌跡をたどります。

細見美術館
京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
会期:~2021年4月11日(日)
協力/紫紅社
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