精神科医の禅僧が贈る「幸せ力を高めるマインドフルネス」第4回(後編) 些細なことに腹が立つ、つい声を荒らげてしまう―。最近、「心がとげとげしい」と感じることはないでしょうか。経験したことのない閉塞感の中、誰もがストレスを抱えながら上手に発散できずにいます。こんなときにこそマインドフルネス。世の中の状況は同じでも、あなたの受け止め方と反応が変わります。
前回の記事はこちら>> 実践・マインドフルネス「歩く瞑想・走る瞑想」
坐禅ばかりが瞑想ではありません。今回は、歩きながら、走りながらの瞑想をご紹介。屋内で基本編を練習した後は戸外で応用編を。いつでもどこでもできる気分爽快な瞑想です。
【基本】足裏の感触に意識を向けてゆっくり歩く
「歩く瞑想」(マインドフル・ウォーキング)の基本は、家の中など安全な場所で、一歩ずつゆっくり歩きながら足の裏の感覚を丁寧に味わう瞑想です。
背筋を伸ばして真っすぐ立ちます。素足で行うと足裏の感覚をより感じやすくなります。腕の動きや視覚に意識が分散しないよう、両手は振らず前か後ろで組み、視線は3~4メートル先の床に落として足もとは見ないようにします。
ゆっくり歩きだし、足裏が床に着いたり離れたりする感覚に意識を向け、足の動きを一つ一つ追うように感じていきます。歩きながら、「かかとが上がる」「つま先が上がる」「移動する」「床に着く」と心の中で言葉にしながら行うと注意が逸れにくくなります。
途中で向きを変えたり、同じところを回ってもよいので、5分でも30分でも好きなだけ続けてください。
普段は意識しない足裏の感覚に注意を注ぐことでアウェアネス(気づき)が向上し、ありのままを受け止めることでアクセプタンス(受容)が育まれます。この習慣が自己肯定感につながると考えられています。
古来より、歩く瞑想は禅寺で歩行禅(経行(きんひん))として修行に取り入れられていました。坐禅の合間の休憩時間に集中を切らさないために歩きながら瞑想したのです。現在、臨済宗では歩行だけでなく禅堂の外を全力疾走しながら行うこともあります。
歩く瞑想背筋を伸ばし、両手は振らず前か後ろで組む。視線は3~4メートル先の床に向ける。
足裏の感触に細かく意識を向け、足の動きに合わせて心の中で(1)〜(4)を言葉にしながらゆっくり歩き続ける。
【応用】足の運びのリズムと呼吸を合わせる
買い物や通勤の途中、散歩など普通に歩くときやジョギングやランニングも瞑想の時間になります。
「吸いながら4歩、吐きながら4歩」と足の運びのリズムと呼吸を同期させることに注意を向けます。歩数は自由に設定してかまいません。普段、音楽を聞きながら歩いたり走ったりしている人も、その間だけは消したほうが効果的です。
意識を呼吸と足の運びに集めると、心配事や悩みを頭の中でいったん切り離すことができるため、短い距離でも頭がすっきりし、新しい考えが浮かんだり道が開けたりするものです。
マラソン選手は、走行中に雑念が多いと脳が疲れて後半のペースに影響が出るといわれています。「走る瞑想」は、脳疲労を最小限に抑えるためにアスリートが使っているテクニックとも同じです。
ワンポイントアドバイス
スポーツジムでも瞑想ができるスポーツジムを利用する人は、ランニングマシンで「走る瞑想」、エアロバイクで「漕ぐ瞑想」を行うこともできます。バイクの場合は、足裏や大腿部の感覚に注意を向けて、左右の足で漕ぐ感覚と呼吸を同調させます。
テレビなどの画面を見ながら行うと注意力が分散してしまうので、その最中だけでも消すとよいでしょう。
動画を見ながら「歩く瞑想」を行ってみましょう
下の動画では川野さんの歩く瞑想(応用編)の詳しい説明を聞くことができます。
〔お話ししてくれたのはこの方〕川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となる。寺務と精神科診療の傍ら、講演活動などを通してマインドフルネスの普及と発展に力を注いでいる。著書に『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)ほか。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/ 取材・文/浅原須美 イラスト/井上明香 撮影(川野さん)/鍋島徳恭
『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。