誰かにじっくり話を聞いてもらうと、問題は解決しなくても心が軽くなったり、前向きになったりするものです。上手な聞き方「マインドフルリスニング」の手法と、心の安定を図るための話し方、書き方のコツをご紹介します。
マインドフルリスニング
相手の話を要約しながら耳を傾けるマインドフルリスニングは、カウンセリングで用いられる傾聴と同じで、話す側は自分の気持ちを整理でき、聞く側も消耗しないという双方に望ましい手法です。私は治療だけでなく企業研修にも取り入れ、効果を実感しています。ポイントを3つ挙げてみました。
(1)「答え」は出ない、求めてもいない私の大先輩の精神科医は「最高の傾聴とは、注意(attention)という贈り物を相手に与えることである」という名言を遺されました。
大前提として、悩んでいる人の相談は答えが出ないことがほとんどだと知っておきましょう。しかも多くの場合、相手は答えやアドバイスを求めているのではなく、自分のつらい思いを「聞いてほしい」のです。そして「あなたがそう感じるのは当然だ」と理解してもらえたときの安心感は、大きな心の助けとなるでしょう。
(2)サマライズ(要約)しながら聞く悩み相談は、往々にして話にまとまりがなく時系列もばらばらで、支離滅裂なこともよくあります。それを、できるだけ短くまとめて「◯◯ということがあったのですね。それでつらいのですね」と返してあげるのです。
自分の話にしっかり耳を傾けてくれたことに心から安堵し、さらに要約して返してもらえたことで混乱していた頭の中が整理されて、「それだけのことか」と冷静さを取り戻したり、「こうすればいいのか」と解決方法のヒントを見出すなど道が開けてきます。
(3)必要なのは同情ではなく共感「共感」とは相手に起きている事実を把握して気持ちを理解することです。相手と同じ気持ちになって「ひどい!私も腹が立ってきた」などと反応するのは「同情」。相手は一時的に満足しますが、後で怒りを増幅させかねません。そして自分にもネガティブな感情が生じ、疲れてしまいます。いわゆる「同情疲労」と呼ばれる現象です。
共感には聞く側の冷静さが必要で、そのためにも要約しながら聞くことが役に立つのです。たとえば国語の試験で文学作品の一部を100字にまとめる問題が出たら、内容に感動している余裕はありませんね。それと同じで要約に集中することで感情にとり込まれることが少なくなるのです。
ワンポイントアドバイス
話すときは感情を言葉に表す人に話すときは、事実だけを淡々と語るより、そのときの感情を交えて伝えるほうが心の浄化に効果的だといわれています。怒ったり泣いたりしながら話すという意味ではなく、「私は怒りで我を忘れた」「私は悲しくて涙が止まらなかった」など、その体験をしたときの自分に立ち返って感情を言葉に表します。
感情筆記法
客観的事実を書くJ.ペネベーカー博士の研究に基づいて、私が患者さんにおすすめしている方法です。感情を文字にして外に出す「書く」という行為には、思い込みや決めつけを是正する効果があります。
数行の日記でもよいので、次のポイントを心がけて、書いてみてください
(1)客観的事実に基づいて書く「私は嫌われている→◯◯さんにこういわれたので私は嫌われていると感じた」など。事実と感情を切り分けることで冷静に物事を見られるようになる。
(2)ネガティブな感情は肯定的な言葉をやんわり否定する形で書く「不幸だ→幸せを感じるのが難しい。嫌いだ→なかなか好きになれない」など。気持ちがよりポジティブな方向に向きやすい。
〔お話ししてくれたのはこの方〕川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となる。寺務と精神科診療の傍ら、講演活動などを通してマインドフルネスの普及と発展に力を注いでいる。著書に『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)ほか。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/