精神科医の禅僧が贈る「幸せ力を高めるマインドフルネス」第10回(前編) 自分に優しさを向ける──。このテーマは、川野泰周さんが本連載を通して私たちに最も伝えたいことだといいます。「コロナ禍の中で余裕をなくし不安にさいなまれがちな今こそ、頑張っている自分をねぎらい、慈しむ心を持ってほしい」と。まずは“時間”というご褒美を自分にプレゼントしませんか?
前回の記事はこちら>> 自らを慈しむ心が自己肯定感を高める
「あなたは、頑張っている」。自分自身にも優しさを向けよう
こんなあなたへ●人の失敗には寛容だけれど、自分のミスは許せない。
●人から評価されないと、自分に自信が持てない。
●家族の予定や意向が最優先。自分のことはいつも後回し。
〔お話ししてくれたのはこの方〕
川野泰周(かわの・たいしゅう)さん臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長今の時世にこそ重要。自分を大切にする「自慈心(じじしん)」
写真/アフロ長引くコロナ禍。不安や閉塞感、無力感にさいなまれ、自分を大切にする気持ちが捨て置かれてはいないでしょうか。自らを犠牲にして頑張り続けることで、知らず知らずのうちに心を疲弊させているかたが少なくありません。私は今こそ、自分に対して優しさを向け、自身を慈しむ心、すなわち「自慈心」を育てることが大事だと実感しています。
自慈心は仏教の言葉ですが、最近では心理学の分野にも浸透し、海外でも英語訳の「セルフ・コンパッション」が大変注目されています。米テキサス大学のクリスティン・ネフ博士とハーバード大学のクリストファー・ガーマー博士はMSC(マインドフル・セルフ・コンパッション)という自慈心に特化したマインドフルネスの8週間プログラムを開発し、効果を上げています。
博士らが提唱するセルフ・コンパッションの概念には3つの要素があります。1つ目が自分への優しさ。2つ目が共通の人間性の理解。これは自分も他者も同じ弱さ(バルネラビリティ)を持った人間なのだと認識し、自らの失敗で自分を必要以上に責めたり、落ち込んだりしない心の状態を意味します。