「口腔ケア」で健康革命 歯や口腔の健康が全身の健康と密接にかかわっていることがわかってきました。歯周病があると動脈硬化や糖尿病、果ては認知症のリスクまで高まります。一方で、歯周病を治すとこれらの病気は改善していきます。まさに全身の病気は、口腔から始まっているのです。アンチエイジングを見据えた50代からの口腔ケアに今日から取り組みましょう。
前回の記事はこちら>> 集中連載「口腔ケアで健康革命」第3回では、九州大学大学院歯学研究院口腔保健推進学講座 口腔予防医学分野 准教授・竹下 徹先生に、口腔内細菌叢の働きについて教えていただきました。
九州大学大学院歯学研究院口腔保健推進学講座 口腔予防医学分野 准教授
竹下 徹先生口腔常在フローラのバランスが肺炎死亡リスクを左右する
口の中にいるのは虫歯や歯周病の原因菌だけではありません。実に700種類もの口腔細菌が見つかっており、人によって菌種は異なるものの、口の中には100~200種類の常在菌が棲息しています。
そして、それらの菌は、腸内細菌と同様に「フローラ」と呼ばれる口腔内細菌叢を形成しています。
常在フローラのバランスが虫歯や歯周病の引き金に
細菌のDNAを解析する技術で口腔内細菌叢の全体像が把握できるようになった今、虫歯や歯周病の発症メカニズムに対する考え方が変わり始めています。
「ある特定の病原性細菌が引き起こすのではなく、それらの菌を含めた口腔常在フローラ全体のバランスシフトが発症の引き金になっているという考え方が主流になりつつあります」と九州大学大学院歯学研究院准教授の竹下 徹先生は説明します。
そして、それは全身の健康状態との関連においても同様の傾向がみられることが竹下先生らの研究によってわかってきました。
舌苔(舌の上)は口の中で最も多くの口腔細菌が棲息し、唾液とともに飲み込む細菌の大半は舌苔に棲息している菌であることから、竹下先生は舌苔の細菌叢に着目し、誤嚥性肺炎との関連について調査しました。
まず施設入所する高齢者173名の口腔常在フローラを調べてみると、主要な口腔常在菌はどの高齢者にも共通していて、それらの菌は大きく二つのグループに分かれていました。
一方、その構成バランスは人それぞれ異なっており、「グループ1常在菌群が優勢のタイプ1」と「グループ2常在菌群が優勢のタイプ2」の二つに分類することができました(下の図参照)。
グループ1が優勢になると健康状態は悪化する
グループ1常在菌群が優勢の場合このタイプは高齢になるほど増加し、口臭の強さ等に加え、誤嚥性肺炎の死亡リスクが高まるなど、健康状態の悪化がみられる。
そしてタイプ別に誤嚥性肺炎による死亡率を追跡調査したところ、タイプ1の高齢者のほうがタイプ2に比べて有意に死亡率が高い結果となりました。
口腔常在フローラのバランスが肺炎死亡リスクにかかわっている可能性があります」(竹下先生)。