写真はイタリア料理「エスプリメ」のホワイトアスパラガスとスパゲッティ。(詳細は4/28公開予定の記事にてご紹介)【対談】「美食の街・港区」から、攻めの予防医学を発信
美味しい食事を楽しみながら、健康寿命を延ばす!
東京で最も飲食店が多く、さまざまな食文化が楽しめる港区は「美食の街」としても有名です。この街から食を通じた健康づくりを発信すべく先ごろ港区観光大使に就任した山田 悟先生と港区長の武井雅昭さんが大いに語り合いました。
右:武井雅昭さん、左:山田 悟先生山田 悟先生
食・楽・健康協会 代表理事
1994年、慶應義塾大学医学部卒業。2011年より北里大学北里研究所病院糖尿病センター長。20年、港区観光大使に就任。食を通じた健康の街づくりに取り組む。武井雅昭さん
東京都港区長
1977年、早稲田大学政治経済学部卒業。同年、港区入区。2004年より港区長。「参画と協働」を区政の柱に据える。予防医学デーを制定し健康イベントを開催
「地域の病院が住民の健康づくりに取り組んでくださるのはとても心強いです」──武井区長
山田先生(以下敬称略) 北里大学北里研究所病院では、2018年に研究所の創立記念日にあたる11月5日を「予防医学デー」に制定し、住民に向けた健康イベントを開催しています。2回目となる2019年のイベントでは港区のご後援をいただき、誠にありがとうございました。
予防医学デーにあわせて行われた予防医学デーフェスティバルの様子はこちら武井区長(以下敬称略) 行政としても地域の基幹病院が住民の健康づくりに積極的に取り組んでくださることはとても心強いです。イベントは大勢のかたが来場され、盛況だったと伺っています。
予防医学デーを通して地域と病院一体で食事と健康を考える2019年11月4日に開催された「予防医学デーフェスティバル」では屋台、無料診断健康チェック、講演など健康維持・増進に役立つさまざまな催しが行われ、大勢の区民が訪れた。「予防医学への情熱は130年前から当院に脈々と受け継がれてきたものです」──山田先生
山田 おかげさまで老若男女を問わずたくさんのかたにご来場いただきました。当院の創設者である北里柴三郎先生は“予防医学の父”と称され、先生が著した『医道論』の中の七言絶句には“保育蒼生吾所期(私が志すは大衆を教育し健康にすることである)”という一節があります。予防医学に対する情熱は創設時から当院に脈々と受け継がれてきたもので、この取り組みを始めたのも自然の流れといっていいでしょう。
北里研究所病院がある白金の地で先人の足跡に触れる敷地内に新設された北里柴三郎記念館展示室には、北里柴三郎が東京大学在学中に著した『医道論』や惜しみなく援助を続けた福澤諭吉の直筆の手紙が残されている。(学校法人北里研究所提供)白金北里通り商店会の飲食店とコラボして低糖質メニューを開発
武井 2019年の予防医学デーの取り組みの中で注目したいのは白金北里通り商店会とのコラボレーションです。区内には多くの商店街があり、それぞれの特色を打ち出すために工夫を重ねておられる最中ですが、こうした活動からみても病院との協働はユニークです。
山田 当院と白金北里通り商店会との絆は長い年月をかけて育まれてきました。当院の始まりは1893年に開設された「土筆ヶ岡養生園」です。本邦初の結核専門病院で地域のご理解をいただくことも必要だったのでしょう。通用門を開放して通り抜けを認めるなど、この地に溶け込む努力をずいぶん重ねたようです。地域に対するこの姿勢は130年近く経った現在も変わることはなく、今日の信頼につながっていると感じます。
武井 地域と一体となった病院であることは皆が認めるところです。この商店会では何世代にもわたってお世話になったという人が多いですね。話は戻りますが、昨年の予防医学デーのイベントでは商店会にある4軒の飲食店が低糖質メニューを開発しブースを出展されたとか。
食後高血糖に早めに気づくことによって糖尿病の発症を防ぐ
山田 低糖質メニューの開発に先立ち、商店会のかたには低糖質の意義や食後血糖値のコントロールの重要性について講演しました。また、低糖質と通常の食事をそれぞれ食べた後に血糖値の測定も。すると、あるパティスリーシェフの食後血糖値が高いことが判明し、低糖質スイーツの開発だけでなく、ご自分の食生活も低糖質に切り替えられたのです。
武井 それはすごいことですね。
山田 はい。特定健診の血糖測定は空腹時が対象となるため、日本人がなりやすい食後高血糖に気づきにくいのです。しかし、空腹時血糖値の異常から1〜2年後に糖尿病を発症するのに対し、食後血糖値では発症までの期間が10年と長く、早めに気づくことで生活習慣を改善し糖尿病の発症を予防することが可能です。
カロリーは気にしなくて大丈夫!
食後血糖値が上昇しないようたんぱく質、脂質、食物繊維を
“ゆるやかな糖質制限食”のルールはとてもシンプルで誰でも実践しやすいのがメリットです。
「1食あたりの糖質量が20〜40グラムに収まっていればカロリーは気にしなくても大丈夫です。たんぱく質、脂質、食物繊維など糖質以外の栄養素を制限する必要もありません。これらの栄養素には食後血糖値の上昇を抑える効果があるので、むしろ積極的に摂っていただきたいです」と山田先生。
もちろん、おやつも楽しめますが、糖質量は10グラム以内を守りましょう。
ゆるやかな糖質制限食の基本ルール
※糖質量40グラムの目安はおにぎり1個分です。 ※ここで表記している糖質量は文部科学省『日本食品標準成分表七訂』の利用可能炭水化物量のことです。1食の糖質量は20〜40グラム。1日で合計せず、1食ごとに上限量を守る。
高糖質の食材を減らしたり置き換える工夫なら飲食店も取り入れやすい
武井 港区が平成30年度に実施した特定健診の結果を精査すると血糖異常の所見が3番目に多いことがわかりました。さらに区民の死因で糖尿病の占める割合は国や都と比較して高く、その予防は最重要課題の1つであると認識しています。一方、勤労者の増加に伴い、外食率も上がってきています。直近のデータでは週2回以上外食する人は区民全体の半数近くを占めています。
「外食が多い人たちの健康を守る。港区の付加価値を高めるうえでも白金の取り組みに期待します」──武井区長
山田 まさに血糖異常の段階で私が提唱する“ゆるやかな糖質制限食”に取り組んでいただくと高血糖状態を改善し糖尿病の発症も確実に防げます。この食事は糖質の多い食材を減らす、あるいは置き換えるなどの工夫をすれば誰でも実践できるため、外食産業のかたにも取り入れやすいと高評価をいただいています。
武井 私もそこがよいと思うのです。外食が多くても健康に配慮した食事がとれるよう飲食店の環境を整えていくことは大切です。低糖質の健康食はこれから日常的に取り入れられ、提供する飲食店も増えていくでしょう。外食が多い人たちの健康を守る観点からも白金北里通り商店会の取り組みには期待しています。
「美味しいものをたくさん食べても健康でいられる。これを美食の街・港区で世界中の人に体感してほしいのです」──山田先生
山田 今年はこの取り組みを“美食の街”である港区全体に広げていきたいと考えています。オリンピック・パラリンピックを観戦するために日本中、世界中から訪れた人々に「美味しいものをたくさん食べても健康でいられる」環境であることをぜひ体感していただきたいのです。
武井 港区は都内で飲食店の数が最も多く、しかも多彩な食文化が楽しめる区です。ラグビーワールドカップのときもずいぶん賑わいましたし、これに健康の要素が加わると魅力が倍増します。区としても食を通じた健康維持・増進には力を入れていきたいので、ほかの商店街にも白金北里通り商店会の情報を提供することを考えています。それにより自然発生的に広がる可能性はありますね。
山田 はい。港区は世界に向けての健康発信地になれると確信しています。
武井 その始まりとなる白金の地に多くのかたにお越しいただき、美味しくて健康的な食事を楽しんでもらえることを、私も心から願っています。
白金北里通り商店会を散策しがてら低糖質の健康食を楽しむ
白金北里通り商店会にある「パティスリー ピエス」では低糖質スイーツを開発(詳しくは4/30公開予定の記事にて)「バーガーマニア」では低糖質ハンバーガーを開発。(詳しくは5/7公開予定の記事にて)