帝国ホテルの食を半世紀もの間支え続けている田中健一郎さんが東京2020大会で支えるのは、世界各国から集まる代表選手たちの食事です。選手村の食堂に思い入れがある松岡さんは興味津々。情熱溢れる田中さんの言葉に「このパッションは誌面では伝えきれません!」と感激の面持ちでした。
「1964年大会の開会式で、雲一つない空にブルーインパルスが五輪の輪を描いた光景は今でも忘れません」という田中さん。東京2020大会への思いは松岡さんにも負けないほど。帝国ホテル 東京本館17階「インペリアルラウンジ アクア」にて。第16回
帝国ホテル特別料理顧問 田中 健一郎さん
仕事を持つ母親に楽をさせたいと食事作りを始めたのは田中さんが小学生の頃。家族に「おいしい」と褒められ、料理の楽しさに目覚めたそうです。田中 健一郎さん KENICHIRO TANAKA1950年東京都生まれ。1969年帝国ホテル入社。1年間のフランス留学を経て、99年に東京料理長兼調理部長に就任。2002年から約17年間、東京、大阪、長野・上高地にある帝国ホテルの料理部門すべてを統括する総料理長を務める。本年4月より特別料理顧問。17年にフランス共和国農事功労章オフィシエ受勲。東京2020大会飲食戦略検討会議委員、選手村メニューアドバイザリー委員会座長。選手村では1日約4万5000食を提供
松岡 スポーツの世界では“eat to win 食べて勝つ”といわれるほど、選手にとって食はとても大事なことです。田中さんは東京2020大会でその食の部分を担っていらっしゃいますが、1964年の東京大会と今回とでは何がいちばん違いますか。
田中 1番は提供する量ですね。当時は1日最大約6000食で、来年は約4万5000食。8倍近くになると試算されています。そのため、ホテルの料理長たちが現場を指揮した64年のときとは違って、ロンドンやリオの大会同様、実際の運営は大手のケータリング業者が行います。
もう1つの大きな違いは、今回はメインダイニングと別棟のカジュアルダイニングの2か所で提供することです。5000人収容のメインダイニングは選手たちが慣れ親しんだ食事で安心して競技に臨めるよう、世界各国の料理をメニュー数にして約700種類用意します。カジュアルダイニングは日本食がメインで、競技を終えた選手たちにくつろいでいただける場をイメージしています。
松岡 いいですね!カジュアルダイニング。選手村の食堂は選手たちが最もリラックスできる場所なんですよ。僕は選手時代、食堂で長い時間を過ごして、いろいろな競技の選手たちと交流しました。
田中 そうでしたか。カジュアルダイニングでは日本の豊かな食材、日本の食文化の素晴らしさを発信していきます。懐石のような伝統的料理だけでなく、ラーメンやたこ焼きといったものまで用意する予定です。
松岡 そのような食堂は今までの大会にもありましたか。
田中 なかったと思います。食堂の一画に開催国の料理のコーナーを作るといったことはありましたが、別棟を設けるというのは初めての試みのはずです。