新しいパリ物語 第7回(全11回) 2024年夏季オリンピックのメイン開催地となるフランス・パリ。活気づく街を牽引するように、新たに誕生したホテルやレストランは、これからの時代のキーワードを体現したものになっています。未来に向けた最先端のラグジュアリーの形を、いち早くご紹介いたします。
前回の記事はこちら>> アール・オ・グラン Halle aux grains
レストランの内側の窓からは、美術館のメインホールが望める。19世紀末のパリ万博時、五大陸をテーマに制作された天井画と、安藤氏のコンクリートの円筒構造とが唯一無二の空間を作り出している。進化する美食「土地の記憶と共鳴する食」
2021年に生まれた新名所の中でも特に話題を集めたのがこちら、「ブルス・ドゥ・コメルス/コレクション・ピノー」。
“商品取引所”というかつての名前はそのままに、フランスきっての大富豪フランソワ・ピノー氏の現代アートコレクションを展示する美術館として6月にオープンしました。
メディチ家出身の王妃カトリーヌ・ドゥ・メディシスの時代からの由緒あるモニュメント。18世紀からは小麦市場として使われ、さらに商品取引所となっていた。建物の再生にあたっては、ピノー氏が全幅の信頼を寄せる日本人建築家・安藤忠雄氏が設計を担当。伝統と未来が響き合うような空間が出現し、多くの人々を魅了しています。
そして、この建物の最上階に誕生したのがレストランカフェ「アール・オ・グラン」。
フランス中央部オーブラックの山地、人里離れた土地にありながら世界の食通の憧憬を集めてきた料理人、ミシェル・ブラス、セバスチャン・ブラス父子が満を持して、パリを舞台に繰り広げるレストランなのです。
セバスチャン・ブラス氏。郷里の本店で父ミシェル氏とともに厨房に立ち、ミシュランの三つ星を守り続けてきたが17年に星の返上を決断。より自由な料理世界へと舵を切った。名産地セヴェンヌの玉ねぎを丸ごとゆっくりと火入れ。そのしっとりとした甘みと食感をブルターニュ特産の乳製品グウェル、きのこのソース、そして複数の穀物や種が隠し味になったフレークとともにいただく。仕上げの黒トリュフで味わいにさらなる深みが。世界の穀物、種、豆果を千の方法で生かす
店名の「アール・オ・グラン」は“穀物市場”の意。これは“小麦市場”という場所の由緒を尊重していると同時に、大自然の中で素材を探求し続けるブラス父子の姿勢を象徴しています。
アマランサス、小豆、ホラーサーン小麦、ムラサキウマゴヤシをはじめ50種類以上の穀類、豆、種を使いこなし、発芽、焙煎、発酵などあらゆる方法で未知の味わいを引き出す。それらがフランスのとびきりの食材のアクセントになるのです。
アヴェロン産の鹿肉のポワレ。ジビエの季節ならではの一品だ。付け合わせはかぼちゃ、かぶ、シャントレル茸、そしてブラックラディッシュの葉。肉の焼き汁とスパイスが食材と絶妙のハーモニーを醸し出している。そうした美食の先端を体験するだけでなく、美術鑑賞の途中でひと休みという気軽な楽しみ方もできる、懐の深いレストランです。
下のフォトギャラリーから、詳しくご覧いただけます。 Information
アール・オ・グラン Halle aux grains
Bourse de Commerce – 3e étage 2 rue de Viarmes 75001 Paris
- 営業時間:ランチ12時〜15時(火曜を除く)、コースメニュー 54ユーロ〜。午後の軽食15〜18時(火曜を除く)、アラカルト 15ユーロ〜。ディナー19時30分〜深夜(21時30分LO)、コースメニュー 85ユーロ〜。 定休日:なし
撮影/武田正彦 取材・文/鈴木春恵 ※1ユーロ≒131.19円(2022年1月5日現在) ※料金やメニュー等は変更になる場合があります。
『家庭画報』2022年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。