京都で新体験 第9回(全30回) 今、私たちに必要なのは、心をからっぽにし、頭を整理する時間です。自分の心に、自分の人生に深く残る何かを求めて、日本の心の原点、京都に旅立ちます。
前回の記事はこちら>> 京都で学ぶ、京都を知る。「名庭」を観る 平安神宮神苑
庭の顔を探す日本庭園には正面があり、そこからの眺めは作者が考え抜いた庭の顔。東神苑の正面は尚美館内から。「ここからの眺めが部屋ごとに異なるように、秀逸な庭には見るべき箇所がいくつかあります。作者の心を読むように、見るポイントを探すのは宝探しのようです」。[教える人]小川勝章さん(植治次期12代)(おがわ・かつあき)1973年生まれ。幼少期の多くを歴代の手がけた庭園で過ごす。高校入学時より11代小川治兵衞に師事する。新規の作庭のほか、歴代の手がけた庭園の作庭、修景や維持を続ける。「いつものペースを落として、ぼーっと庭を眺める。すると、庭が語りかけてきます」(小川さん)
1895年に平安遷都1100年を記念して、京都の復興と日本文化の心の象徴として創建された平安神宮。その魅力の一つは、新しい時代の幕開けを感じさせる、開放的で明るい「陽」を表した庭園にあります。修行の場であったそれまでの禅庭などとは大きく異なり、琵琶湖疏水を引いた広大な池や流れがあり、東山を借景とした大らかで雄大な景色が広がります。
この1万坪にも及ぶ池泉回遊式庭園を手がけたのは、近代日本庭園の先駆者である7代目小川治兵衞。無鄰菴(むりんあん)や円山公園など、幾多の名園を残しました。
軽やかな風が吹き抜ける東神苑は西側には貴賓館である尚美館があり、そこからの眺めを正面として、栖鳳池(せいほういけ)を中心として造られました。
「ゆったりとした心持ちでぼーっとしていると、さまざまなことに気づきます。かすかな滝の音や、揺らめく波の輝き、池の島に訪れるカワセミやサギの姿。水面は刻々と変化する空を鏡のように映し出し、空を見上げるより、空を大きく感じられる。この場所は私の先祖が自然の恵みを強く感じられるように仕立てたのだと思うのです」と、作者の意図に想いを馳せながら案内してくださる小川勝章さん。
池に面した3つの部屋からは鶴島と亀島の両方、またはどちらかだけが見えたりと、眺めがどれも異なることにも注目。「庭と対話しながら、“ほんまもんとは何か”を常に考えています。それはすぐに見えるものではなく、ゆっくりと時間をかけて感じ取れるものだと思うのです」。
【読者限定】イベント案内 庭の心に触れ、懐石料理を味わう会
撮影/本誌・西山 航
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。