外国人著述家が愛する
“次世代に伝えたい風景”
日本に残る自然と調和した歴史ある町並みや昔ながらの民家、手つかずの原生林……。外からの目が、私たちに気づかせてくれます。それが、世界でも類を見ない、かけがえのない美しい風景であることを。
朝焼けに輝く鞆の浦の港。万葉の時代から潮待ちの港として栄えた。歴史ある港町と瀬戸内海の絶景
【広島県・鞆(とも)の浦(うら)】
──ドナルド・キーンさん
鞆の浦の町から見た景色は、正に絶景だった。目前には瀬戸内海や島々、遠くに目をやれば四国の山が美しくそびえていた。
市内からは、瀬戸内海や島々を見渡せる。そんな景色にうっとりした私は、世界に瀬戸内海ほど美しい海があるだろうか、とさえ思った。町も美しい。細い道を歩きながら、昔の日本の町はこうだったと嬉しく思った。
古い商家が軒を連ね、本物の伝統を守っている生きた町という実感が湧く。この美しさを人々に伝えようと思ったが、私はためらわずにはいられなかった。もし宣伝を請け負えば、次に来る頃には観光客のために、コンビニエンス・ストアを始めとする雑多な店が建つのではないかと恐れた私は沈黙を守った。しかし、結局人々は鞆の浦を発見したようだ。
観光客よ、鞆の浦を見物する時は、車やバスに頼らず、自分の足で歩いて、玉のようなこの町を楽しんで頂けないだろうか。私はそう思う。
(読売新聞2010年1月31日日曜版より)
ドナルド・キーン(1922~2019年)
アメリカ・ニューヨーク生まれ。日本文化研究者。古典から現代文学まで英語圏へ日本文学を幅広く紹介。2008年に文化勲章受章。 〔特集〕春夏秋冬雄大な景色を旅する 日本の絶景遺産(全13回)
写真/アイノア=角田展章、山梨勝弘 撮影/荒木則行 井上修二
※誌面で紹介した絶景は、季節や気象条件などにより見られない場合があります。ご了承ください。
『家庭画報』2020年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。