旬を愛でる花旅・庭めぐりとは…毎週水曜日は、ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが“今が旬”の花の名所情報をお届け。今回はバラの見頃に訪れたい、人気の高いイングリッシュローズのコレクションが楽しめる庭をご紹介します。
旬を愛でる花旅・庭めぐり(35) 憧れのバラ、イングリッシュローズを堪能する〜大阪・デビッド・オースチン イングリッシュローズガーデン
大阪の泉南にある「花咲きファーム」内にあるデビッド・オースチン イングリッシュローズガーデン。なだらかな丘陵の敷地を流れる清流に沿って美しいバラが咲き誇る景色は感動的。イギリス以外では世界でここだけのコレクションガーデン
「今年は開花が早くて大変です」
ガーデン関係の方々にお会いするたびにお聞きするこの台詞。5月半ばにはすでにバラが見頃を迎え、満開を過ぎそうな勢いなので、旬を見逃さないように気をつけてください。
そんな今こそ、大阪の泉南にぜひ訪ねていただきたいローズガーデンがあります。
「花咲きファーム」の中にあるイングリッシュローズガーデンです。ここはイギリスのバラ育種会社「デビッド・オースチン・ロージズ」が運営するガーデンで、2012年にオープンしました。
同社の直営ガーデンは、イギリス以外ではここだけで、約3000本のイングリッシュローズがコレクションされています。
全国に多くのバラ園がありますが、イングリッシュローズをこれだけ種類豊富に見られるガーデンはほかにありません。
「イングリッシュローズのサンプルガーデンでしょ」と思ったら大間違い。
なだらかな丘陵地にある7500㎡に及ぶ広い敷地には、各テーマごとに区切られたガーデンがいくつも連なり、それが鮮やかなバラの花色で埋め尽くされるこの時期は、声をあげてしまうほど圧巻の景観になります。
丘陵地を流れる清流が心地よく、その川面に美しく咲き誇るバラが映り込む景色は本当にロマンチック。
さまざまな花色で埋められたアーチをくぐるたびに、心が華やいできます。
それほど美しい景色を生み出すイングリッシュローズとは、さて、どんなバラかご存じでしょうか。
イングリッシュローズは園芸界に多大な影響をもたらした優れたバラ
シュラブ仕立ての中に、たくさんのアーチやオベリスクに絡まりバラが咲く。この密度感の中でバラの香りに染まる時間はまさにバラ色の幸せ気分。バラは世界最古の園芸植物といわれるほど、人間とのつながりが深く、多くの種類が系統に分類されています。
原種に近くハイブリッドティーが誕生する以前の、おもにヨーロッパで栽培されていたバラをオールドローズと呼びます。
オールドローズは丸弁で花姿が優しい印象ですが、最大の特徴は芳香が素晴らしいこと。
香水の原料に利用されることで知られるダマスクローズもオールドローズに属します。
オールドローズは花がやや平面的なものが多く、多くが開花期に一度だけしか咲かない一季咲きの性質ですが、さらに美しい立体的な花形に、そして開花期に繰り返し何度か花が咲くようにと重ねて改良されたのがハイブリッドティー、いわゆるモダンローズです。
1867年に発表された‘ラ・フランス’という品種が現代バラの幕開けと言われています。
1950年代はモダンローズの全盛期でしたが、そんな中、オールドローズのもつ自然な優雅さや香りを残しつつ、ハイブリッドティーの四季咲き性や耐病性を兼ね備えたバラができないものかと育種に情熱を注いでいたのがイギリスの育種家、デビッド・オースチン氏です。
そして1961年に美しいピンクのバラ‘コンスタンス・スプライ’が発表され、ここからイングリッシュローズの歴史が始まりました。
以後、デビッド・オースチン・ロージズでは毎年2〜3品種の新作を発表し、いまでは約200品種という充実したなコレクションとなっています。
イングリッシュローズは美しく香りがよいだけでなく、栽培のしやすさも魅力で、バラ愛好家にとってはまさに究極のバラ。
このバラの登場以降、バラを育てて咲かせる方々が格段に増えたと思います。
その意味でも、デビッド・オースチン氏の園芸の世界への貢献は多大なものがあると感じます。
1971年から世界バラ会議が3年に1度開催され、世界中で愛されている優れたバラを1〜2種のみ選出していますが、2009年にはイングリッシュローズの‘グラハム・トーマス’の殿堂入りが認められました。
現在まで殿堂入りを果たしたのはわずか16品種のみ。美しい山吹色の名花をぜひこの庭で探してみてください。
1983年に発表されたイングリッシュローズ‘グラハム・トーマス’は2009年の世界バラ会議で見事殿堂入りを果たす。山吹色が美しく、5〜8輪が房になって咲くボリューム感ある姿は見事。デビッド・オースチン氏の師で園芸研究家のグラハム・トーマス氏にちなんで名づけられた。ここでしか見られない新品種のバラをいち早く愛でる喜び
シュラブローズにネペタなどの小花の組み合わせがロマンチックな景色を生み出す。ピンクと淡紫の花色合わせは本当にエレガント。私はイングリッシュローズがとても好きです。
文句のつけようがないほど美しいピンクの‘メアリー・ローズ’、アプリコットイエローからピンクへと花色が変わる‘アブラハム・ダービー’、クリムゾンレッドが気品高く花が熟すと素晴らしい香りを放つ‘L・D・ブレスウェイト’など、お気に入りの品種を挙げたら切りがないほどです。
広いガーデンをひと花ひと花愛でながら、お気に入りを探すのもとても楽しいのですが、このガーデンでは、新品種をいち早く見ることができるのも大きな魅力です。
まだほかの庭では咲いていない新品種をもう見た、というのはちょっと鼻高々の気分。
2017〜2018年の新品種も魅力的で、優しいイエローの花がとてもフレッシュ印象の‘ヴァネッサ・ベル’、チェリーピンクの大輪品種‘ジェームズ・L・オースチン’などが咲いていますので、ぜひ探してみてください。
毎年約15万の交配を行い、約40万粒のタネが生まれ、そこから発芽するのが約25万。
その中から8年かけて選抜が繰り返され、誕生する新品種は年に2〜3種。
育種家の並々ならぬ情熱が生み出す素晴らしいバラをゆっくりご堪能ください。
お気に入りのバラを見つけたら、併設のプランツセンターへGO!
バラはときに美しすぎて近寄りがたい思いになることもありますが、イングリッシュローズは素直に一目惚れしてすぐにでもお持ち帰りしたくなるフレンドリーな魅力があるバラだと思います。
身近で育てたくなるバラ、それもイングリッシュローズの魅力です。
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