東京国立博物館にて、奈良県外で初めて公開
日本彫刻の最高傑作といわれる聖林寺の「十一面観音立像」。奈良時代・8世紀の作といわれ、木心乾漆造りで漆箔。像の高さは209.1センチと大きく、八頭身のすらりとした姿と優しい顔が印象的。今回、東京国立博物館にて、奈良県外で初めて公開される。
特別展『国宝 聖林寺十一面観音~三輪山信仰のみほとけ~』は2021年6月22日から開催されます。詳細は記事下のご案内をご覧ください。慈悲深き国宝 十一面観音像の魅力を巡る
倉本明佳ご住職1980年に父の実家である聖林寺に移り、2007年得度。2010年に室生寺にて四度加行(しどけぎょう・真言密教の修行)、同年12月に伝法灌頂(でんぽうかんじょう)を授かり住職を継ぐ。法話会の講師をつとめ、仏教の布教および奈良や桜井の魅力を伝える。また、父 弘玄(聖林寺中興第12世)が、住職は住むこと、つまり生活が仕事に結びついているという意味を込めた「住職とはようゆうたものや」の言葉を、長く守り継がれてきた古刹の維持や、人々の心のよりどころになることと心得て研鑽する日々である。「760年代に東大寺の造仏所で造られたと伝えられる十一面観音菩薩像。木心乾漆像であり、天平時代の代表的な作品と考えられています。今のところ、その願主は天武天皇の孫である智努王(ちぬおう)とする説が有力のようです。
かつては四天王に前立観音のほか、左右に多くの仏像が並び立っていました。なお、背面は薬師如来一万体が描かれた板絵でした。宝相華唐草の光背(現在奈良国立博物館に寄託中)は、下の写真にあるように華やかで見事なものであったと伝えられています。
「光背・蓮華座・本体─すべて揃って国宝です」
十一面観音の光背は大破して一部しか残っていないが、研究者により、何パターンか復元の図案がある。そのうちのいちばん高さがあるものは西陣織で復元されており、金色の細やかな織りが美しく見事。往時をしのばせる。「十一面観音菩薩の像の均整のとれた仏身には、初めて出会った瞬間から目を奪われます。天平の豊満な顔立ちや量感のある上半身、また両腕から台座に垂れる天衣の曲線の美しさには心奪われます。特に美しい表情を見せるのは指先です。ゆったりとおろした指先と、水瓶を持つ左手には感激します。
これほど美しい観音様ですが、かつては大神神社の神宮寺である大御輪寺で、秘仏として祀られていました。見る対象としてではなく、祈りの対象であったのでしょう。山をご神体としていた大神神社にいらした観音様は、もしかすると、自然をおさめる対象として造られたのかもしれません」(倉本明佳ご住職談)
聖林寺の門前からは、卑弥呼の墓所といわれる箸墓古墳や、邪馬台国跡ではないかと注目されている纒向(まきむく)遺跡など、古代の古墳が散在する盆地東部と、三輪山の山陵が一望できる。四季折々の自然の広がりが、大和ならではの静かなたたずまいを見せる。 Information
特別展『国宝 聖林寺十一面観音
~三輪山信仰のみほとけ~』ご案内
東京都台東区上野公園13-9 東京国立博物館 本館特別5室
- ●奈良国立博物館 東新館 奈良市登大路町50 TEL:050(5542)8600 開館時間:9時30分~17時(金曜・土曜~20時) 月曜休館 会期:2022年2月5日(土)~3月27日(日) ※会期や開館時間は変更になる可能性があります。最新情報は公式サイト等でご確認ください。
〔特集〕特別取材─天平の十一面観音を訪ねて 奈良・聖林寺の国宝と出会う
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/萬 眞智子 撮影協力/槇峯眞千子
『家庭画報』2021年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。