次の九州は“美味しい”を訪ねて 第11回(全23回) 佐賀県と長崎県は2022年9月に西九州新幹線の開業を控え、旅の目的地として再び注目が集まっています。今回は新幹線が走るエリアを軸に「美味しい」をキーワードに探訪しました。
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2つのベッドルームやラウンジ、ライブラリー、茶室などからなる200平方メートルを超える客室。一棟で和のくつろぎを堪能できる。世界最高峰の銘酒「鍋島」でもてなす1日1組のオーベルジュへ
豊かな水脈に恵まれた佐賀は、優れた蔵元が結集する日本酒どころ。なかでも「鍋島」を製造する「富久千代(ふくちよ)酒造」は世界最大規模のワイン品評会「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2011」のSAKE部門で最優秀賞を獲得し、以来、数々のコンペティションで受賞し続けている佐賀屈指の酒蔵です。
有明海と多良岳山系に囲まれた県西部の鹿島・肥前浜宿にあり、2021年5月には1日1組だけの日本初の酒蔵オーベルジュ「御宿 富久千代」をオープンしました。
「多くのかたに支えてもらった『鍋島』を軸に、空間や料理、器をお楽しみいただく宿です。ここにしかない時間や体験を通して、肥前浜宿の新たな価値や魅力を感じていただけたら」と語るのは、3代目蔵元で杜氏の飯盛直喜さん。
酒蔵と宿を拠点に肥前浜宿の魅力を発信する、蔵元兼杜氏の飯盛直喜さん(左)、支配人を務める奥さまの理絵さん(右)、後継者で酒造り修業中の長女の日奈子さん(中)。宿の中庭にて。町の景観を守るために手に入れた築230年の茅葺きの元商家を10年かけてリノベーションし、奥さまの理絵さんらとともに快適で美しいオーベルジュを誕生させました。
左・音楽や読書を楽しみながら過ごせる、吹き抜けのライブラリー。イタリアのモダン家具を配し、「バング&オルフセン」の音響設備を導入。右・日本の文化を再発見できる茶室。希望すればお茶がいただける。「酒蔵というと代々の仕事を受け継ぎ守っておられるイメージですが、そこに現代の感性を重ね合わせた素晴らしい空間です。調度品やしつらいなど、随所にこまやかな心遣いを感じます」と賀来さんも目を見張ります。
ここだけのペアリングを、宿のレストラン「草庵 鍋島」で楽しむ
最大6席のカウンターで、この地ならではの料理を表現する西村料理長。魚介の多くは玄界灘や有明海であがったもの、肉や野菜はほぼ佐賀産で取り揃えている。ゲストの期待が最も集まるのがレストラン「草庵 鍋島」での夕食。東京の「神楽坂 石かわ」などで研鑽を積んだ西村卓馬料理長が厳選した西九州の食材をライブ感たっぷりに調理し、お酒とペアリングしながら提供しています。
唐津産の鮑とずいきを佐賀産のすっぽんの煮こごりで味わうひと皿。酒盃は宿のオリジナルで今右衛門の作。多種多彩な「鍋島」は期間やレストラン限定のものもあり、原料や精米歩合非公開の「ブラックラベル」も登場。
実山椒だれと木の芽で味わう有明産海うなぎの炭火焼きと蓮根餅。器は唐津の藤ノ木土平作。華やかでキレのよい日本酒から始まり、食中に9種類ほどの「鍋島」をペアリング。「型にはまった会席やペアリングでなく、ここならではのエンターテイニングな時間を過ごしてもらいたい」と料理長。器も初期伊万里やアンティークグラス、唐津や有田の作家ものなどを揃え、口福眼福の宴が繰り広げられます。
右・豊後の備長炭で焼き上げた脂ののる白甘鯛とにゅうめんの椀物。左・有明海でとれる竹崎がにと冬瓜の冷やしあん。美酒を生み出す酒蔵の見学は宿泊客のみの特別な体験
発酵中の醪(もろみ)を攪拌する醪仕込みはお酒の良し悪しを決める大事な工程。優しく飲み手の五感を刺激するお酒を目指している。酒蔵オーベルジュならではのお楽しみが、チェックイン後に催される宿泊客限定の酒蔵ツアー。日本酒ができるまでの説明を受けながら杜氏の案内で蔵の中を巡り、その雰囲気を楽しみつつ「鍋島」を試飲することもできます。
「日本酒を知るきっかけになり、知識を得た後にいただくと、より格別なものになります」と賀来さん。さらに、通常は販売していない「鍋島」を購入でき、希少な一本も手に入れられます。
近い将来、新たな施設をオープンする計画もあり、進化し続ける酒蔵とオーベルジュ。蔵元とスタッフが一つになって仕掛ける、次なる極上のひとときにますます期待が高まります。
下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 Information
御宿 富久千代
佐賀県鹿島市浜町乙2420-1
- 1泊2食付き1名平日6万6000円、土曜・日曜7万7000円 月曜・火曜定休 1組限定1棟貸し(4名まで) IN15時/OUT11時 草庵 鍋島 (住所と電話番号は上記、御宿 富久千代と同じ)17時一斉スタート 月曜・火曜定休 コース2万2000円、「鍋島」のペアリングはおまかせで4500円〜 要予約
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/西村晶子 取材協力/長崎県 九州観光機構 九州旅客鉄道
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。