10月 奥入瀬渓流
文/細野晴臣
渓流の原体験は岩手県一関に近い厳美渓だった。中学生の頃、仙台に出張していた父を訪ね、東京に戻る前に立ち寄ったのがその厳美渓が見える旅館だったが、父との二人旅は間を持て余し、何をするでもなく渓谷の激しい流れをずっと二人して見ていたものだ。
しかし強く記憶に残るのはその景色ではなく、怒濤のような渓流の音であり、午後から夕暮れまでの時間、自分の背後で同じ音を聞く父とともに、無になってしまった気持ちが忘れられない。
このように旅の印象は景色と同時に、時として音の記憶だったりするのだ。
ところで、今は感染症の流行で戒厳令でも出たようなご時世となっている。奥入瀬の渓流と聞けば、東京に住む人間には星よりも遠い異世界のように思えてしまう。
星は東京でも見えるが、奥入瀬は行って見るしかない。紅葉の季節には自由になりたいものだ。
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動画(奥入瀬フィールドミュージアム)制作/NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会 細野晴臣(ほその・はるおみ)
音楽家
1947年東京生まれ。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。
公式サイト
www.hosonoharuomi.jp 出典・音響提供/環境省「残したい“日本の音風景100選”」 写真/アフロ
※こちらの音は、公益社団法人日本騒音制御工学会ホームページ「日本の音風景100選/サウンドライブラリ」からも聴くことができます。
『家庭画報』2020年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。