アルビオンアート ── “輝き”という文化
監修・文/山口 遼(宝石史研究家)ジュエリーの長い歴史の中で、宝石の素晴らしさ、作る技術の見事さ、デザインのユニークさで群を抜く作品が残されたのは、近代ではない。ルネッサンスに始まり、産業革命の頃に終わった、王や皇帝がそれを取り巻く貴族たちや教会とともに人民を支配した、いわゆる封建時代に作られたジュエリーがもっとも優れている。
ここにご紹介するのは、そうした王侯貴族が残した名品と、近世に花開いたアール・ヌーヴォー、アール・デコの時代の名品を集めた大コレクションである。しかも、これは一人の日本人が集め、日本に点在する。このことはほとんど知られていない。
コレクションの名前はアルビオンアート・コレクション。集めたのは有川一三氏である。こうした過去の名品の多くで、市場に残るものは少ない。別のものに作り直すために壊されるか、生き残ったジュエリーも多くは美術館、博物館に収蔵され、ガラス越しにしか見ることができない。
アルビオンアート・コレクションは、私の知る限り、市場に残り自在に見ることのできるコレクションとしては世界最大最上のものであり、その多くは欧米の展覧会などに日本から貸し出されている。これは日本の自慢といえるだろう。
写真のジュエリーは、ロシアの女帝エカテリーナが作らせ、愛人と功臣に贈ったもの。
ロシア大帝エカテリーナ2世より第2代バッキンガムシャー伯爵へ贈られたエメラルドネックレス
駐サンクト・ペテルブルク英国大使であった第2代バッキンガムシャー伯爵へ贈られたエメラルド。エメラルドの間にダイヤモンドを配し、さらにペアシェイプのエメラルドが下がる壮麗かつ端正な様式。セットでイヤリングもある。(エメラルド18世紀、マウント1830年頃、エメラルド、ダイヤモンド、ゴールド、シルバー) /個人蔵ネックレスは1500年代後半にコロンビアのムゾ鉱山で採掘され、スペインからインドに送って研磨された、油染めなどの加工がない絶品のエメラルドである。
ロシア大帝エカテリーナ2世よりアレクセイ・オルロフへ贈られたエカテリーナ大帝の肖像 エメラルド・インタリオ
宝石の中で最も彫刻が困難とされるエメラルドに、エカテリーナ2世の横顔を彫った傑作。女帝として即位した無血革命に貢献した貴族オルロフ家に贈られた。(インタリオ18世紀、セッティング後補、エメラルド、ダイヤモンド、ゴールド、シルバー)/個人蔵ペンダントは女帝の肖像が名匠イエーガーによってインタリオ(陰刻)に彫られている最高の名作で、こうした作品が現代に残っていること自体が奇跡に近く、それが日本にあることもさらに奇跡である。
「特別展 宝石 地球がうみだすキセキ」で至高の輝きを間近に
現在開催中の「特別展 宝石 地球がうみだすキセキ」では、アルビオンアートのジュエリーコレクション約60点が展示されています。貴重なミュージアムピースの圧倒的な煌めきを間近に感じられる、またとない機会です。 日程:~2022年6月19日(日) 場所:国立科学博物館 東京都台東区上野公園7-20 時間:9時~17時(入場は16時30分まで) 休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜休館。ただし、5月2日、6月13日は開館) 入場料:2000円(一般・大学生) 600円(小・中・高校生) お問い合わせ:TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル) URL:
https://www.kahaku.go.jp/
左『指輪が語る宝石歴史図鑑』(3080円) 右『決定版 アンカットダイヤモンド』(4400円)/ともに世界文化社刊 この特別展で展示されているダイヤモンドの原石や、指輪についてまとめた、諏訪恭一氏の本が、絶賛発売中です。
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撮影/栗本 光
『家庭画報』2022年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。