究極のハイジュエリー 第3回(全20回) 目にするだけでも夢や幸福感を誘い、生きる力を与えてくれる、究極のハイジュエリーをご紹介いたします。
前回の記事はこちら>> 宇宙への憧れ、美しき地球への愛をハイジュエリーに込めて
2022年、ハイジュエリーの世界では、自然の風景、動植物、天体をテーマにした傑作が数多く生まれました。困難な時期にあって、遥か彼方を夢見る一方、生活の中にある“美”を再発見する……。宇宙を旅して誰よりもそのことを体感された山崎直子さんにお話を伺いました。
地球が育んだ、奇跡ともいうべき色石の豊かな彩り。その輝きや繊細な光を巧みに操りながら、幾重にも花びらが重なる華麗な花の園を表現しました。ネックレス(PG×ルベライト×ダイヤモンド×エメラルド×マザーオブパール)8555万円(参考価格)/ブルガリ(ブルガリ ジャパン)「宇宙は光と闇の強烈な対比の世界。帰還して感じた頰をなでる風、緑の香り、花の彩り、土の感触…… 地球こそ特別で、すべてをありがたく感じました」山崎直子さん
山崎直子さんがスペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗して、宇宙で15日間を過ごしたのは2010年のこと。12年が過ぎた今も、初めて宇宙空間に身を置き、地球を目にしたときの驚きや感動は少しも色褪せることはないといいます。
「ロケットが発射して高度400キロの地点に到達するまでわずか8分30秒。無重力状態になってふわっと体が浮き上がったとき、えもいわれぬ感動とともに不思議と懐かしさを覚えたんですね。深い海の中で漂っているような。それは、もしかしたら母の胎内にいたときの記憶につながっているのかもしれません」
「初めて目に飛び込んできた地球は朝日に輝き、ちょうど頭上にありました。400キロも上空に来たはずなのに、地球を仰向きで見るとは想像もしていなかったので、びっくりしたのを鮮やかに思い出します」
地球が特別な場所だと思い知らされた宇宙への旅
国際宇宙ステーションは秒速8キロで地球上空を回るので、つまりは90分で1周。45分が昼、45分が夜、これを1日に16回繰り返します。
「窓の外を見ていると、実は慌ただしくて(笑)。ただ見飽きることはなかったです。とりわけ日の出の瞬間、真っ暗な中から宇宙と地球を隔てる空気の層だけが最初に日の光を浴びて虹色に輝き始め、だんだんと光が増していく様子というのは、神々しいまでに美しくて何度見ても心奪われる光景でした。光がない真っ暗な宇宙だからこそ、より際立つ太陽や星、そして地球の光。その光と闇の強烈な対比は強く心に残っています」
子どもの頃からの憧れであり、特別な場所であった宇宙へ実際に行ったことで、山崎さんはその美しさを体感すると同時にまた、思いを新たにします。
「宇宙は無重力が基本です。その中で重力があって生命が育まれている地球のほうが実は特別な場所なのだということが、理屈ではなく感覚的にすっと理解できたんですね。帰還したときは、自分の頭が漬物石のように重くて。重力を実感しながら外に出ると、頰をなでる風、緑の香り、花の彩り、土の感触……慣れ親しんでいた一つ一つのこと、すべてがありがたく感じられました。地球は青くて生命が存在して、と当たり前に思っているけれど、そもそも地球が生まれた46億年前は水もありませんでした。徐々に水が運ばれ、生命が誕生して、植物や動物も含めたさまざまな生命の共同作業で、今の地球の姿になっていったのだと思います。その美しい奇跡の姿を宇宙から見ることができる技術を持ち得たところも、人間のすごいところですよね」
宇宙に思いを馳せる文化が広がることを願って
針の代わりに時を告げるのは2羽の鳩。ナイトブルーの星空を、くちばしにリングをくわえた鳩が舞い飛びます。星降る夜にふと見上げたくなる幻想的な空を、ケースに閉じ込めて。「コロンブ」コンプリケーションウォッチ(WG×ダイヤモンド×グランフーエナメル×サファイア、ケース径41ミリ、アリゲーターストラップ、自動巻き)1738万円(参考価格)/ショーメ「最新の宇宙望遠鏡によって、銀河や星の姿はより色彩豊かに。宇宙観が宝石のようにカラフルになってきた気がします」
最近では、運用が開始されたばかりの「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」から送られてきた、最新の鮮やかな宇宙の画像が話題となりました。
「最先端の技術がとらえた銀河や星の姿は、非常に色彩豊か。宇宙観がよりカラフルになった気がしました。こうした感性が、ハイジュエリーのような世界にも反映されていくとしたら、とても嬉しいですね。思えばジュエリーもまた、気の遠くなるような時間をかけた自然の営みと、その美しさを知恵と技術をもって引き出そうとする人間の共同作業の賜物といえるのではないでしょうか」
ちなみに山崎さんの宇宙への旅にお供したジュエリーは、クルーとお揃いで作ったペンダント、小さな石をあしらったバレッタ、クリスタルをちりばめた腕時計にリングなど。なかでもペンダントはお守のような存在だったとか。
「地球上では今、何かにつけて『分断』が問題になる時代ですが、みんなが宇宙という同じ空の下に生きている、これは揺るぎのない事実です。空を見上げることが連帯感を持つことにつながったり、少しでも宇宙に思いを馳せる文化が広がっていくことを願っていますし、私もそのために活動を続けたいと思います」
宇宙飛行士 山崎直子さん1999年宇宙飛行士候補者に選ばれ、2010年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗しミッションに従事。2011年JAXA退職後、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人「スペースポートジャパン」代表理事、公益財団法人「日本宇宙少年団」理事長などを務め、宇宙教育に力を入れて幅広く活動。 撮影/栗本 光 取材・文/河合映江
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。