究極のハイジュエリー 第12回(全20回) 目にするだけでも夢や幸福感を誘い、生きる力を与えてくれる、究極のハイジュエリーをご紹介いたします。
前回の記事はこちら>> アールヌーヴォーという潮流
監修・文/山口 遼 宝石史研究家
ここに掲げるのはヴィクトリア末期から1910年代にかけて、主にフランス、ベルギーなどで流行を見せたアールヌーヴォーを中心とするジュエリーである。
アールヌーヴォーという動きはジュエリーに限られたものではなく、建築、家具、食器などの実用具にも広く使われたもので、特徴を一言でいえば曲線の多用と左右非対称。特にジュエリーの場合には植物、動物などの姿をリアルに描きながら、巧妙にデフォルメしている。この中心にいたのが天才、ルネ・ラリックである。
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山口 遼さんの連載「ジュエリーお買い物学」>>彼は使う宝石の金銭的な価値はほとんど気にせず、エナメルやガラスなど、透明感があり色が自由になる素材を用いて、動物、昆虫、植物などと人間との組み合わせといったデザインを多用している。おおげさにいえば、鬼面人を驚かすといった見事なデザインである。多くの追従者を持ち、ここに載せたフイヤートルのプリカジュールエナメルの作品もその一つである。
注意しなければならないのは、今の美術史では、この時代はアールヌーヴォーが中心であったかのような記述が多いが、それは違う。この時代でも主流は前世紀から引き継いだいささか手垢のついたもので、アールヌーヴォーという動きは若い先進的なデザイナーが自分の小さなアトリエを中心に活動したもの。作品数としては非常に少ないのが特徴だ。その数少ない名品を、アルビオンアートは多く所有している。その点でも、この世界的なコレクションが日本にあること自体、大いに誇りにしてよいと思う。
アルビオンアート・コレクションより
ルネ・ラリック作 ナルシスのプラーク
ルネ・ラリックのオープンワークデザインで、泉に映った自分に恋したものの、手が届かず悲しみに暮れて死んでしまった美しい青年、ナルシスをテーマにしている。リボンもしくはパ―ルを取りつけて身につける“ドッグ・カラー”。(1900年頃、エナメル、ガラス、ゴールド)/個人蔵、協力:アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート
ウジェーヌ・フイヤートル作 蝶の精のブローチ
アールヌーヴォーの旗手、ルネ・ラリックの工房を1883年から任されていたウジェーヌ・フイヤートル。熟練したプリカジュールの技術が際立つ作品。ラファエル前派の夢見るような女性像に想を得て、蝶の翅に溶け込ませている。(1900年頃、オパール、ムーンストーン、ダイヤモンド、エナメル、ゴールド)/アルビオンアート・コレクション
ルネ・ラリック作 トンボのペンダント
アクアマリンのボディとプリカジュールエナメルの翅が美しい色彩を奏でる。ラリックはデザインに日本美術の影響を受けており、日本語から翻訳された「トンボの詩」を反映し、ペンダント以外にも多数のトンボを採用した。(1900年頃、アクアマリン、ダイヤモンド、エナメル、ゴールド) /個人蔵、協力:アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート
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一人の日本人が集めたジュエリーの大コレクション「アルビオンアート・コレクション」をご存じですか 撮影/栗本 光
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。