シャネル 2022‒23年秋冬 オートクチュール コレクション(後編) グラフィカルな構成主義と心地よいオーガニックなムードが共存した2022‒23年秋冬 シャネル オートクチュール コレクション。ラグジュアリーな特別感を湛えながら、モダンに着やすく仕上げた、“今”という時代の気分を反映したコレクションをご紹介します。
前回の記事はこちら>> シャネルのオートクチュールは個性的で自由、マドモアゼルの価値観そのもの
左上/音楽を担当したセバスチャン・テリエ、舞台・会場デザインを手がけたグザヴィエ・ヴェイヤンと共に登場したヴィルジニー・ヴィアール。 左下、右/ブローニュの森にあるエトリエ乗馬センターで行われた、シャネルのオートクチュール コレクション。会場のセットは、ストライプや視覚的なカモフラージュからのインスピレーションを得て作られ、膨らんだカプセルやチューブ、モビール、糸車のようなモチーフを設置。会場の野外スペースでは、前回のショーでも見られたグザヴィエ・ヴェイヤンのインスタレーションも楽しめる仕掛けになっていました。「私はグラフィックなアプローチをナチュラルなルックで崩すのも好きです。軽やかでフェミニンで着るためにデザインされた服。これ以外のものは考えられません」──ヴィルジニー・ヴィアール(シャネル アーティスティック ディレクター)“自分のために服を着る”“自分のために装う”というマドモアゼル シャネルの価値観を純粋に表現したのがシャネルのオートクチュールです。
「この新しいコレクションでは、ガブリエル・シャネルが1930年代に思い描いていたような、肩が強調されたスーツや、身体に添ったロングドレスが登場します。カラーパレットは、鮮やかなグリーン、カーキ、ベージュ、ピンク、そして黒とシルバーで構成されています」と語る、シャネルのアーティスティック ディレクター ヴィルジニー・ヴィアール。
再解釈されデザインの幅も広がったツイードスタイルや、カール・ラガーフェルドが思い入れを抱いていたグラフィックな構成主義に共鳴する模様の刺繡なども目を引きました。
既成の枠に捉われない表現、モダニティと独自性といったシャネルのレガシーは、ヴィルジニーのクリエーションに確実に受け継がれています。
再解釈されたツイードジャケット
シャネルのアイコンであるツイードジャケット。
今回は、乗馬から着想を得たウエスタンハットやニッカボッカと組み合わせたスタイルや、パフスリーブのブラウス風ジャケット、1枚仕立てでカーディガンのようなインティメートなムードのものなど、今までのツイードのイメージを更新する、大胆かつ軽やかなデザインが登場しました。
厚みがあるツイード地もしなやかに心地よさを保ち、完璧なルックに仕立てる高度な技は、経験豊かな裁縫師たちの才能によるもの。
1932年発表のハイジュエリーコレクションへのオマージュを捧げて
今回、ルックの美しさをよりいっそう高めたのが、特別なジュエリーの存在です。
1932年にガブリエル・シャネルがデザインした唯一無二のハイジュエリーコレクション「Bijoux deDiamants」にオマージュを捧げた新作ハイジュエリー「コレクション 1932」からコーディネートしたのが、「天体のエレメント」を表現したデザイン。
繊細なブラックドレスからツイードのデイスーツにまで合わせた煌めく流れ星や月は、オートクチュールの装いと呼応し、互いを引き立たせています。
手仕事の温かみや純粋さをラグジュアリーに
シャネルのオートクチュール コレクションを支えるパートナーとして欠かせないのが専門的なアトリエの存在。
高度な刺繡技術や、多種多様な素材からユニークなツイードを生み出す“ルサージュ”、繊細なレースに数千個のパーツを使用し、モダンで華麗な刺繡を紡ぎ出す“モンテックス”、今回、ウェスタンブーツやメリージェーンパンプスを製作した靴のアトリエ“マサロ”など、その類いまれな技巧はヴィルジニー・ヴィアールのクリエーションと共存し、最高峰のラグジュアリーを作り上げます。
〈Photoすべて©CHANEL〉
〔特集〕 シャネル 2022‒23年秋冬 オートクチュール コレクション(全2回)
取材・文/土橋育子
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。