第44回 オーダーシューズで「一生もの」の靴に出会う
「最近、ヒールの靴を履かなくなった」──迷い世代の女性には、こうおっしゃる方が多く、「どこかいいブランド知らない?」とよく聞かれます。
実は、私自身も同じ悩みを抱えているひとり。52歳前後まではヒールの靴一辺倒だった私ですが、外反母趾になったのをきっかけに、ヒール靴を履く回数が徐々に減り、今ではスニーカーがほとんどです。この連載でも以前お話ししたとおり、ラグジュアリースニーカーがブームになり、スニーカーに対する認識が変わったのも一因ではありますが、やはりヒール靴を履くのがしんどくなってきたのは否めません。
一般的に、迷い世代あたりになると、体幹や筋力の衰えにより歩き方に変化が生じる、足の肉の付き方が変わる、むくみが出るなどが原因で、今までフィットしてきた靴が合わなくなったり、ヒールの靴が履けなくなったりする方が多いようです。
そこで、私がトライしてみたいと思っているのがオーダーシューズ。実は、先日、私の友人がハイヒールの誂え靴を履いていたのですが、「足裏のアーチに沿い、甲をぴったりとホールドしてくれるから、全然疲れない」そうなのです。彼女は足の幅が狭く、既製のシューズではなかなか合う靴が見つけられず、やっと満足のいく一足に出会えたのだとか。
クラシックなデザインのハイヒールを履いた姿は凛として美しく、「私もオーダーして、ヒール靴を履きたい」欲がむくむくと。自分に本当に合う靴があれば、少々値が張っても「一生もの」として、ずっと愛用できますし、靴の専門家と相談しながら作ることで、自分の足に対する新たな気づきもありそうです。今回は、大人の女性が頼れるオーダーシューズメゾンを3軒ピックアップしました。
HOSHINO
「医学と芸術の融合」を目指し、木型からフルオーダーも可能
「パティーヌビーク(イエロー×ダークブラウン)」靴20万1300円/HOSHINO銀座本店銀座に店舗を構えるHOSHINOは、靴職人Shunji HOSHINOさんが手がけるシューズメゾン。オールハンドメイドで作る靴は、足に合わせた設計と美しいデザインが両立しており、エレガンスが薫り立つよう。
メニューは木型から作製する「ロイヤル」、HOSHINOの既製の木型に外反母趾などの調整を加えて作製する「ビスポーク」、既製の木型を使用する「メイドトゥオーダー」の3パターンから選択が可能。左右差をつけたお仕立てをしてもらえるので、それぞれの足に合ったサイズに仕上がるのです。
足の悩みのために、見た目の美しさを諦めたくないという方のために、デザインと履き心地のバランスの取れた靴作りを目標としているそうで、特にハイヒールの美しさは絶品! 写真上の「パティーヌ コレクション」は、HOSHINOを代表するデザイン。キメの細かいベビーカーフに幾重にも色を重ねて染め上げることで唯一無二の色となり、更に履いていくことで「自分の色」へと変化していく楽しみも。もし私がオーダーするなら、この仕上げにトライしてみたいなと夢見ています。
プレシャススキンが充実しているのも特徴で、特に人気が高い素材がガルーシャ。複数の素材やカラーを選ぶことができるのもポイント。既製木型の場合、つま先の形状はポインテッド・ラウンド・スクエアの3種類、ヒールの高さは5種類から選択(ただし、つま先とヒールの組み合わせコースにより作れるものに限りがあり)。修理は有料、お預かりで、履き心地の変化に伴う調整は、基本的には無料で随時受け付けているそう。納期は最短で「ロイヤル」が約6か月、「ビスポーク」が約4か月、「メイドトゥオーダー」が約2か月。「写真左のブーツは、くるぶしまでの長さの広めの履き口デザイン。履くと驚くほど美脚に見えるんです」。〈左から〉ブーツ25万5200円 パンプス(つま先ガルーシャ)17万8200円 パンプス(レザー×ファブリック)12万9800円 スニーカー12万9800円/すべてHOSHINO銀座本店tartaruga
幅が細く、甲が低い足のための、オリジナルの木型とデザイン
コンビパンプス9万1300円/タルタルガ先ほどお話しした友人が靴を作ったのがこちら。彼女が履いていたのが、まさに上写真のパンプスでした。大阪にアトリエを構え、デザイナー・オーナーである松本善博さんが手がけるセミオーダーシューズは、細い足幅に特化したオリジナルのデザイン。足の採寸値を元に、自社木型に調整を加えて製作する靴は、抜群のフィット感を誇り、「今まで履いていた靴が緩すぎて履けなくなる」ほど。
例えば、外反母趾は、もともと細身の足の方に多く、出てしまった骨の部分に合わせて大きな靴を履くと、サイズに比例して甲やかかと回りなども大きくなり足に合わず、余計に足が疲れてしまうのだそう。
しかし、tartarugaなら、外反母趾の部分だけを大きくして微調整することが可能。他にも、ハンマートゥ(足指の関節が山型に曲がって変形している)、薬指や小指の関節にタコができている、靴を履くと横幅はきつく前も詰まる感じなのに歩き出すとかかとがスポスポ抜けてしまうなどの悩みがある方は、幅が細く、甲が低い足の可能性があるので、是非足を測りに来てほしいとのこと。
幅広ではなく、幅狭の悩みに対応しているシューズブランドというのが珍しく、私は初めて知りました。大きすぎる靴やスニーカーを履くことを習慣化してしまうと、足のアーチが崩れ、ヒールの靴はますます遠のいてしまうので、プロと相談しながら自分の足の特徴をしっかりと把握できるといいですね。
木型は全9種類、デザイン数は約70種類。「足が〇〇ワイズだからこの木型」という断定的なおすすめはせず、専門のスタッフによる採寸、サンプルシューズの試し履きなど、フィッティングを大切にしながら決めていくスタイル。かかとが減ってしまった際のリフト交換など、経年変化についての修理は有料、それ以外のメンテナンスについては、お渡しから一年間はアフターケア期間として履き心地に関する調整は無料。自社製作のため、経年使用により擦り切れた革の補強やその他の補修も可能な限り対応。納期は約2か月。「私が作るとしたら、左のローファーで、シボ感のある柔らかいレザーがいいかしら。でき上がりを想像しながら素材や色を選ぶのもオーダーの醍醐味ですね」。〈左から〉ローファー8万5800円 フラットシューズ8万300円 スニーカー3万9600円(スニーカーのみ在庫販売) コンビパンプス9万1300円/すべてタルタルガTOKYO POP UP STORE日時:2023年3月3日(金)~5日(日)10時~19時(最終日のみ10時~17時)
場所:東京・表参道Perry House Gallery
東京都渋谷区神宮前4-23-6 ペリーハウス8号
事前予約制
RYO ASO
全シューズを一人で製作する、真摯なマエストロ
パイソン(ヒール高9㎝)13万円/RYO ASOインスタグラムに投稿される、トウやかかとに瞳のモチーフがついた「キョロちゃん」シューズが大人可愛いとブレイクしているRYO ASO。実店舗を持たず、3か月に1回中目黒で受注会を開催(インスタで告知)し、セミオーダーシューズを製作するというスタイルで、シューズデザイナーの麻生亮さんが、すべての靴をたったひとりで手作りしています。
麻生さんがシューズデザイナーを志したのは、高校2年生の頃、ロイドフットウエアの茶色のローファーに出会い、どんどん靴が好きになったのがきっかけ。その後、洋書の写真集で見たマノロ・ブラニクの靴に衝撃を受け、彼のような美しい靴を作りたいと願うように。更にその後ジミー・チュウを知り、彼が卒業した学校で靴作りを学びたいとロンドンに留学。帰国後は婦人靴メーカーで10年ほど修業して独立、2011年に自身のブランドを立ち上げたのだそう。
レディスだけを手がけ、1足を仕上げるために最低1週間はかけるという丁寧な仕事ぶりのため、納品まで約1年半かかるけれど、待つ甲斐があると評判。麻生さんの愛が詰まったシューズは、優しい温かみがあるように感じます。
上写真のリアルパイソンは、革屋さんにどうにかお願いして染めてもらったという特別なアイスグレー。季節を問わず合わせやすい上品な色味にひと目惚れしました。パイソンは見た目よりも足なじみのよい素材で足に柔らかくフィットするのでおすすめ……なんていう話を、麻生さんと直接しながら受注できるのも楽しみですね。
木型は5種類、ヒール高はトウのデザインに応じて6種類の中からセミオーダーするシステム。右2足にあしらわれた「キョロちゃん」は、2013年にデビュー。何か可愛いデザインの靴を作れないかと考えて、つま先にポップな目をつけてみようと思い立ったそう。最初はフラットのみでしたが、ハイヒールのかかとに目をつけたところ大人気に。今では、左のようなテントウムシや、ハートモチーフなど遊び心あふれるデザインがアイコン的存在に。メンテナンスは、「靴を作るのと修理は似ているようで全く違う。自分にとっては、修理は作るよりも難しい」という考えのもと受け付けはせず、必要なら修理を専門にしている友人を紹介することもできるそう。「私がスタイリングをしているアナウンサーの女性が、RYO ASOの大ファンで。チャーミングなだけでなく、とっても履きやすいそうで、私も狙っているんです。私が惹かれたのは左から2番目のタッセル付きスリッポン。この素材と色のままで欲しい!」。〈左から〉パンプス5万5000円 スリッポン5万1000円 キョロちゃんパンプス5万5000円 キョロちゃんフラットシューズ4万3000円/すべてRYO ASO中目黒受注会日時:3月11日(土)・12日(日)、12時~19時(12日は~18時)
場所:NO DESIGN GALLERY 中目黒ギャラリー
東京都目黒区上目黒1-7-2
予約不要
いかがでしたか? シューズのプロフェッショナルに、自分の足を見てもらい、相談しながら、才色兼備な1足をオーダーするって、大人ならではの贅沢ですよね! 私も「一生もの」になるシューズ、作ってみたいと思います。
●お問い合わせ
HOSHINO銀座本店
電話 03-6264-6644
tartaruga
電話 06-6206-0737
RYO ASO
Instagram
@ryoaso