ようこそ、ジュエリー美術館へ 第5回(全20回) 見る人、装う人に愛と夢を与え、胸を高鳴らせるジュエリー。今、時代が、世界が、ジュエリーの持つポジティブなパワーを求めています。輝き、色彩、めくるめくデザインを集めた美術館の扉が、ここに開きます。
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あらゆる市場において、今、ジュエリーの動きが活発です。なぜ、人々はハイジュエリーにこんなにも惹かれるのでしょうか。脳科学の観点から考える「宝石にときめく理由」を伺いました。
「宝石には宇宙の物語が詰まっている。まさに世界最古の芸術品。その物語を、脳は感じるのです」
脳科学者 茂木健一郎さんもぎ・けんいちろう◎東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。自分の命を超えて受け継がれるものへの憧れ
英国のケンブリッジ大学で学んでいた頃、よく大英博物館に足を運んでいたという茂木健一郎さん。
「古代ギリシア、ローマ時代の黄金の装飾品が、まるで去年つくったかのように輝いていたことを覚えています。ジュエリーは時を超えて美しさも価値も変わらないもの。先の見えない時代だからこそ、人は、母から娘、孫へと受け継ぐことのできるジュエリーの永遠性に惹かれるのだと思います。
例えばダイヤモンドは、遥か数十億年の昔に宇宙で起きた超新星爆発で生まれたという説があるようですね。人間の脳は目の前に輝く一粒のダイヤモンドに、そんな壮大な宇宙の物語が宿っていることを感じ取り、憧れるのです」
ジュエリーは人間の脳にどんな効果を与えるのでしょうか。
「美しいものを目にするとドーパミンが分泌され気分が上がります。また、脳にはミラーニューロンという鏡のように自分を映す神経細胞がありますから、お気に入りのジュエリーを身につけて人前に立つことで、仕草が変わったり表情が明るくなる効果もあるでしょう」
宝石が放つシグナルを豊かな感受性でキャッチして
宝石を構成する美しさの要素は色、形、輝きが一体となっています。
「人間の脳はパッと見た数秒間でそのすべての情報を処理するのですが、特に色覚は木の実が熟れて果物がおいしくなったかどうかを見極めるために進化したともいわれ、それぞれの色から大自然と結びついたシグナルを本能的にキャッチします。例えばルビーやガーネットの赤は、生命の活動を想起させる色。活力や元気を得られます。
空や海の青は、脳が“生命を包み込むもの”と感じる色。サファイアやタンザナイト、アクアマリンなどの青い宝石には、副交感神経を活性化させることによるリラックス効果があります」
エメラルドや翡翠の緑は?
「植物の葉の色は豊かな食べ物を連想し人を安心させます。どんなに科学が発達しても、こうした感受性は人工知能では得られません。ジュエリーが脳に伝えるシグナルで気分を上げることができたら、顔色や表情までが美しく変わっていくはずです」
写真提供/Christie's Images Limited 2021
『家庭画報』2021年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。