川野医師の診察室から
*実際の症例をもとに内容を変更して掲載しています。
【ケース・1】
コロナ禍の医療現場で、有休をとることにも罪悪感。突然、起きられなくなった→診断書を発行し2か月休職。瞑想の習慣により、自分に優しくする心が育まれた
A子さん(52歳)はパート勤務の看護師。人手が減り負担は増す一方でしたが、有給休暇をとることに後ろめたさを感じ、頑張り続けていたのです。
緊迫状況が峠を越えたある朝、A子さんは突然起きられなくなりました。過労性のうつでした。休職のための診断書を提出すると、上司に「ゆっくり休んでくださいね」と優しい言葉をかけられ、A子さんは自分がいちばん自分に厳しかったと気づいたといいます。
お話を伺うと、子どもの頃に慢性疾患を抱えていて学校を長期に休みがちだったとのこと。そのため自己効力感(自分の心身のありようを自らコントロールできる感覚)を感じることが難しかった背景が考えられました。
「あなたは自分に優しさを与えることが苦手かもしれません。しかし今からでもそれを育むことができます」と、まずは呼吸瞑想をおすすめしました。
次に「自分を手当てする瞑想」(次回ご紹介)をしていただくと、A子さんは「ぬくもりが感じられて、涙が出てきました」。やがて無理をしている自分に気づけるようになり、早めに休みをとるなど、今ではバーンアウトしない働き方を身につけています。
【ケース・2】
保育現場での負担が増え、不眠を訴えて受診。眠ろうとすると余計眠れず→「頑張った! 瞑想」により、わだかまりが取れて寝つきもよくなった
保育士のB子さん(35歳)の主訴は不眠。睡眠薬を調整しても副作用が出たりして効きが悪く、睡眠不足が続いていました。子どもたちも我慢を強いられる生活の中で落ち着きをなくし、B子さんの疲労とストレスはピークに。
深夜のラジオ番組でたまたま私がマインドフルネスについて語るのを聞いたB子さんが「瞑想をやってみたい」と興味を示されたので、ボディスキャン瞑想(体の各部分に順に意識を向けていく瞑想)をお教えしました。ところが「眠るぞ、眠るぞ」とこだわって行ったため逆効果に。
そこで気楽に短時間でできる「頑張った! 瞑想」(次回ご紹介)に切り替えたところ、徐々にありのままの自分を受け入れる心が育まれ、寝つきがよくなったのです。その結果、ボディスキャン瞑想も力まずに行えるようになりました。
川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となり、寺務と精神科診療、マインドフルネスの普及に力を注ぐ。近著に『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/