パンデミックの時代が求める音楽 ワルツの熱情 第2回(全12回) 明と暗が表裏一体となったワルツの底知れない魅力を訪ねます。
前回の記事はこちら>> ワルツの謎 人はなぜワルツに魅せられるのか
パンデミックに揺れる世界がワルツを求める
伊東信宏(いとう・のぶひろ)さん大阪大学大学院教授。専門は音楽学。特に東欧の音楽史、民族音楽学など。近著に『東欧音楽夜話』(音楽之友社)、訳書にS. バッチャーニ著『月下の犯罪』(講談社)など。コロナ禍を経験した今、パンデミック中にワルツが生まれた歴史に共感を覚えます。
17世紀ウィーンでぺストが流行した時に、童謡「愛しのアウグスティン」が生まれました。単純で明るいワルツと同じ3拍子の曲ですが「ペストで皆いなくなった」という歌詞がつけられ、二重の意味が込められています。
コレラが流行した19世紀半ばはシュトラウス2世が活躍した時代でもありますが、彼のワルツにも喜びと悲しみが同居しています。
20世紀前半のスペイン風邪流行時にはラヴェル「ラ・ヴァルス」が生まれました。人は絶望しきると、喜びの音楽にしか体が反応しなくなるのではないでしょうか。
ウィーン市内にあるペストの記念柱。皇帝レオポルト1世が、疫病の終息を記念し1679年に建設した。同皇帝がユダヤ人のために作った地区(レオポルトシュタット)でヨハン・シュトラウス1世やシェーンベルクが生まれている。