クリスマスシーズンの定番『くるみ割り人形』より金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ。「子どもの頃の宝物は、吉田 都さんが金平糖の精を踊っていたDVD。何度も観て憧れていました」。撮影/Rachel Hollingsどんな時も、バレエだけは諦められなかった
二度の怪我を乗り越えた扶生さんは、いよいよその実力を開花させます。入団10年目の2021年、ついにプリンシパルに昇格。
「プリンシパルになっても、バレエに対する姿勢は変わりません。ただ違うのは、ひとつの役だけに集中できること。他の階級のように一作品の中でいくつも役を掛け持ちしないので、自分の時間をすべてその役に注ぐことができるんです。それが私にはご褒美みたいに嬉しくて」
今シーズン、扶生さんは夢の役を演じました。バレエ団の代表作『ロミオとジュリエット』のジュリエット役です。
「舞台で演じているとき、『もしかしたら、私は今までバレエを知らなかったのかもしれない』と思いました。全身を使って、クラシックバレエの型やテクニックの美を見せるのではなく『感情』を語ること。これまで踊ってきたバレエとは全く違う体験で、ひと時ひと時が本当に幸せでした」。
『ロミオとジュリエット』第3幕。「最終幕である3幕は踊る場面がほとんどなくて演技が中心。こんなに心が動くのかというくらい、演じていて涙が止まりませんでした」と扶生さん。撮影/Bill Cooper恋に出会って始まった真の人生を、たった4日間で駆け抜けていくジュリエットは「自分の意志を貫いて、信じたもののためだけに生きる、芯の強い女の子」。そのひたむきさはどこか、扶生さん自身にも重なります。
「私はバレエが大好きで、『踊りたい』という気持ちだけは、何があっても諦められなかった」。
これからも自分自身と向き合って、少しでもたくさん舞台に立ち、お客さまにバレエの魔法を届けたい──それが、大きな夢を叶えた扶生さんの、次なる目標です。
取材・文/阿部さや子
『家庭画報』2022年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。