エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2022年4月号に掲載された第9回、宇宙飛行士の山崎直子さんによるエッセイをお楽しみください。
vol.9 和菓子と地球見
文・山崎直子
和菓子をいただくと、ちょっとホッとします。それは宇宙でも同じだなあと、しみじみ思いました。一日の作業が終わった後に、国際宇宙ステーションの窓から地球を眺めながらいただいた羊羹の味は忘れられません。
宇宙食のメニューの中には、日本食も数十種類認められていて、その中に一口サイズの小倉羊羹と栗羊羹もあるのです。きれいなお皿に盛りつけることは出来ずに、銀色のパッケージのまま食べるしかないのですが、同じく宇宙食になっている緑茶やウーロン茶と一緒にいただくと、気を張り詰めていた身体に美味しさが広がり、疲れが取れていくのを感じました。
余談ですが、緑茶やウーロン茶も、湯呑みで飲むことは出来ません。宇宙食のドリンクはパッケージに粉末を入れた状態で保存されており、約80度のお湯を加えた後、ストローを挿して飲むので、香りが味わえず、どうしても物足りなく感じてしまいます。そこで登場したのが、3Dプリンターで作られた「スペースカップ」。表面張力や毛細管現象を利用して、微小重力の宇宙船の中でも、中身が飛び出さないようになっているのです。
国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」では、いつか宇宙でお茶を点てることが出来たらと、抹茶の粉と水がどのように混じっていくのか、という実験が行われたことがあります。スペースカップで抹茶を点て、季節感のある和菓子をいただくことが出来たら、どんなに素敵な文化交流になるでしょう。お点前などの作法も、宇宙ならではになりそうです。“地球見”に合う和菓子は、どんな味や形になるのでしょうか。
宇宙から帰還した後も様々な和菓子に出会いました。金沢市のイベントで、参加者の皆さんに配られた、地球と宇宙船をあしらった優しい色合いの練り菓子。ふるさと松戸市の同級生の弟さんが営む和菓子屋さんの懐かしい味。テーブル茶道教室もひらく多才な秘書が心を込めて作ってくれた練り菓子。一つ一つの和菓子の中に小宇宙が広がっているようで、そんな出会いをこれからも楽しみに、大切にしていきたいものです。
山崎直子千葉県松戸市生まれ。1999年、宇宙飛行士候補者に選抜され、2001年に認定。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗、国際宇宙ステーション組立補給ミッションに従事した。現在は内閣府宇宙政策委員会委員、日本宇宙少年団(YAC)理事長、松戸市民会館名誉館長などを務める。著書に『宇宙に行ったらこうだった!』、『宇宙飛行士になる勉強法』、『夢をつなぐ』、『瑠璃色の星』など。
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