忙しい日々の合間を縫ってなんとか時間を確保し、念願の高野山を訪れた栗山さん。この世とあの世をつなぐ異域にて空海の教えの真理を垣間見るべく、曼荼羅や阿字観(あじかん)の奥義を高野山真言宗執務公室長・藪 邦彦さんに学びました。
宿坊では護摩祈禱にも参列。「1000年以上続く教えを確立した弘法大師の偉大さ。今も高野山全体を包む、その圧倒的な存在感は肌で感じないとわからないですね。来られて本当によかったです」。
標高1000メートルほどの山々に囲まれた“山上の盆地”である高野山ですが、実は高野山という特定の山があるわけではなく、和歌山県伊都郡高野町中心部のエリアを指しています。空海によって見出されたその昔から、盆地を囲む峰のさまが8枚の蓮の花弁にたとえられ、「八葉蓮華」と呼ばれてきました。
その33万坪の土地は、すべてが金剛峯寺の所有地。2004年にはその敷地から、高野山全体への入り口となる総門の大門がそびえる大門地区、空海が真言密教の道場を最初に開いた壇上伽藍のある伽藍地区、金剛峯寺が建つ本山地区、壇上伽藍と並ぶ高野山二大聖域の一つ・奥院地区、徳川幕府3代将軍・家光公が建立した徳川家霊台が鎮座する徳川家霊台地区、宿坊から唯一の塔頭寺院として選ばれている金剛三昧院が位置する金剛三昧院地区の6エリアが「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として、世界遺産に登録されています。
栗山さんが「チーム作りにもつながる真理に感動しました」と語ったのが、曼荼羅の教え。
藪さんいわく「金堂に飾られている両界曼荼羅(下の写真)は密教の二大経典である『大日経』と『金剛頂経』の教えをもとに、悟りの境地とされる宇宙の真理が表現されています。真ん中にいらっしゃるのが、真言密教の最高位にある仏様の大日如来様。よく見ると、この仏の世界には鬼や邪鬼の姿まで描かれているのがわかりますか?
この世に存在するものに一つとして不必要なものはない、ということを説いているんですね。『皆それぞれ違うからこそ、つながったときに一つの大きな世界をつくり得るのだ。森羅万象すべてが働きを持ち、かかわり合って、私たちは今という瞬間を生かされている』。それが、曼荼羅に込められた真理というわけです。
曼荼羅はもともと、チベットやインドから中国に伝わったのですが、その過程で各地の土地神様をも包括していく。その多様性が真言密教であるともいえます」。
そして、次に向かったのは真言密教の瞑想法の一つ、阿字観を行う部屋。密教法典には、宇宙においてビッグバンが起こる前、何から生まれたものでもない唯一無二の存在があるとされています。
それこそが栗山さんが対峙している、お軸に梵字(サンスクリット語)で描かれた「あ=阿」の文字。「“あ”の揺らぎからビッグバンが起こって、宇宙が広がり、星や惑星が生まれた。その中の地球に、私たちはたまたま存在しているんですね。“あ”は大日如来そのもの、すべての命が集約された響き、波動なのです」という藪さんの説明に「これから“あ”という字と音をすごく大事にします。意識が変わりました」と栗山さん。
栗山さんが楽しみにしていたことの一つが、51か所ある高野山の宿坊の中で唯一、世界遺産に登録されている「金剛三昧院」で過ごすひととき。鎌倉幕府初代将軍、源 頼朝公の菩提寺として北条政子が建立し国宝の多宝塔や、経蔵、大広間の襖絵など貴重な文化財が今も多く現存しています。
ご住職の久利康暢さんによる護摩祈禱の修法、天狗伝説のある樹齢600年の杉の木など、見どころ満載。「表門にも趣がありますよね。精進料理もおいしくいただきました」と堪能され、高野山の夜が静かに更けていきました。
高野山 金剛三昧院
和歌山県伊都郡高野町高野山425
TEL:0736(56)3838
https://www.kongosanmaiin.or.jp/
※次回に続く。
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この記事の掲載号
撮影/鍋島徳恭 取材・文/小松庸子 取材協力/和歌山県観光連盟 北海道日本ハムファイターズ 『家庭画報』2023年9月号掲載。 この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。