今月の美術
ナビゲーター・藤生明日美さん(サンリツ服部美術館学芸員)NHKで放映中の大河ドラマ『光る君へ』。平安時代の貴族文化への興味が高まっている方も多いのでは? 長野県諏訪市の「サンリツ服部美術館」で、秋のお出かけにぴったりな展覧会が開催中です。担当学芸員の藤生明日美さんにお話を伺いました。
庭園の水辺で、水の流れに合わせて即興で詩歌を詠む平安時代の遊びを描いた作品。
左、右・ともに鈴木其一「曲水宴図屛風」江戸時代 19世紀 サンリツ服部美術館所蔵
「曲水宴図屛風」(左)
「曲水宴図屛風」(右)
「今回の展覧会では、当館の所蔵品から、実際に平安時代(10〜12世紀)に書かれた古筆や、後世の人々が平安文化に憧れて描いた作品を展示しています。
平安時代の貴族文化というと、優雅で華やかなイメージがありますが、それだけではなかったことが、作品からもおわかりいただけると思います。たとえば即興で和歌を詠む集いなどの年中行事や、『源氏物語』をはじめとする文学、美術品などから、当時の貴族たちの、優美なだけではない、知的で高い教養をもった暮らしぶりがうかがえます」
三十六歌仙を描いた絵巻物の代表的な作品。約1年間の修理作業後、初公開となる。
【重要文化財/修理後初公開】「佐竹本三十六歌仙絵 中務像」鎌倉時代 13世紀 サンリツ服部美術館所蔵
平安時代当時だけでなく、さまざまな時代の作品が集められています。
「鎌倉時代の《佐竹本三十六歌仙絵 中務像》をはじめ、その後の室町時代、安土桃山時代、江戸時代から現代へと、それぞれの時代の芸術家たちが、長い歴史のなかで平安文化に憧れと尊敬をもち続けていたことが窺えます。本展を通じて、こうした時間の重なりも感じていただけると思います」
本展の見どころを教えてください。
「初公開となる、平安時代の古筆の代表作ともいえる《升色紙》などの“書の作品”をぜひ見ていただきたいですね。『光る君へ』でも、藤原行成が和歌をしたためるシーンが多くありますが、行成が書いたと伝わる書がどのような筆跡だったかをご覧いただけます」
柔らかな曲線と墨の濃淡、重なり合う文字の配置が見事に調和。平安古筆の三色紙の一つ。
【初公開】伝 藤原行成「升色紙」平安時代 11世紀 サンリツ服部美術館所蔵
同じ日本語でも何が書かれているのかがわからず、苦手意識をもつ人も多い書の作品。楽しみ方を教えてください。
「文字を意識せず、絵画のようにご覧いただくとよいかと思います。墨の濃淡や文字の配置によって表現されるリズム感を味わったり、書かれている紙そのものの美しさを愛でたりと、自由に見ていただけるのではないでしょうか。また、筆者になった気持ちで頭の中で筆を運びながら見ていただくのも楽しいかもしれません。加えて、本展では書かれている和歌の書き下しも併せてご紹介いたしますので、内容とともにご鑑賞いただけます」
鑑賞後は、大きな窓が切り取る絵画のような紅葉や冬の諏訪湖を眺めながら、カフェでのんびり。この時期の最高のひとときになりそうです。
『特別企画展 きらめきの時代 憧れの平安王朝』
国宝2件、重要文化財19件、重要美術品19件を含む約1400点の収蔵作品の中から、平安時代をテーマとした作品を厳選。『伊勢物語』や『源氏物語』を題材にした華やかな物語絵や工芸品、美しい料紙にしたためられた古筆など、初公開作品、重要文化財などを含む60点以上が展示される。
サンリツ服部美術館(長野県諏訪市)2024年11月1日(金)〜2025年1月13日(月・祝)
入館料:一般1200円ほか
TEL:0266(57)3311
休館日:祝日を除く月曜、12月11日(水)、12月23日(月)〜1月3日(金)
URL:
https://sunritz-hattori-museum.or.jp/pages/237/