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[短期集中連載 第3回]モネとジヴェルニー 庭こそ彼の傑作だった

2024.10.25

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ジヴェルニーの「水の庭」。池には睡蓮を浮かべ、湖面に映る光を追いかけたモネ。やがて睡蓮の《大装飾画》の構想が生まれる。

抽象絵画の先駆者モネ、その想い

印象派誕生150年となる今年、フランスでは記念の特別展が各地で開催されました。日本でも2024年10月5日(土)から国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき」がスタート、注目を集めています。世界文化社では印象派の巨匠モネにフォーカスした2冊、復刻版書籍『印象派のモネ「花の庭・水の庭」へ』と、パリ・オランジュリー美術館発の絵本『モネと睡蓮』を刊行。庭、睡蓮、浮世絵——晩年に向かってさらに美を模索したモネの物語を、アートライターで絵本の翻訳を手掛けた松井文恵さんが3回の連載でご紹介します。記事の最後にはプレゼント企画もあります。ぜひご応募ください。

第1回「終(つい)の棲家(すみか)ジヴェルニーとの偶然の出合い」⇒

第2回「日本の浮世絵に魅せられて」⇒
モネは50代頃から次第に名声を得て、1900年11月、60歳の誕生日を迎えた頃には、各方面から評価される大芸術家となっていた。


しかし、その後、睡蓮の連作を発表しながらも、モネの身辺では変化が起きていた。ジヴェルニーでの共同生活を経て再婚した妻アリスが1911年、病で亡くなり、長い悲しみと孤独が始まった。白内障など自身の健康も悪化し、長らく制作活動を休むことになる。心配した親友の政治家クレマンソーはモネを励まし続け、やがてモネの最高傑作となる睡蓮の《大装飾画》の構想が生まれる。モネは再び創作意欲を取り戻していく。

モネの寝室は2階、大きな窓は「花の庭」に面している。毎朝4時か5時に起き、空模様を確かめ、晴天なら池のある「水の庭」へ向かい、終日、絵筆をふるった。

モネの寝室は2階、大きな窓は「花の庭」に面している。毎朝4時か5時に起き、空模様を確かめ、晴天なら池のある「水の庭」へ向かい、終日、絵筆をふるった。

ふたりは互いに20代の頃パリで知り合って以来の仲で、クレマンソーはモネを常に叱咤激励した。モネは生涯この仕事に取り組むことになる。1914年2月には長男ジャンが長い病床の末に亡くなり、ジャンの未亡人のブランシュが傍らでモネの身の回りの世話をする。7月には第一次世界大戦が勃発。1915年、《大装飾画》を描くために、庭に巨大な三番目のアトリエを建築し、制作に専念していく。

当初《大装飾画》には睡蓮だけでなく、池の周囲に植えられた多種多様な花々をモティーフとして想定していた。池に架けられた太鼓橋の藤棚に咲き乱れる藤の花や、岸辺を彩るアガパンサスなどである。しかし、最終的には、壁一面を池の水面と光の反映だけで覆うことに決める。モネにとって《大装飾画》は彼の芸術的ヴィジョンの到達点ともいうべき作品だった。池の水面の眺めを朝から夜まで描いた約2メートル四方の大作はアトリエで着々と仕上げられていった。

1914年、睡蓮の《大装飾画》制作のために第3のアトリエを建て、ここで大作が仕上げられていった。

1915年、睡蓮の《大装飾画》制作のために第3のアトリエを建て、ここで大作が仕上げられていった。


1918年11月、第一次世界大戦の休戦記念として、モネはクレマンソーに《大装飾画》の国家寄贈の意向を伝えている。しかしながら、視力の衰えがその完成の道を阻むこととなる。モネが視力の低下に気づいたのは1908年のことだったが、治療することなくずっと描き続けてきた。1923年、モネは二度にわたり白内障の手術を受け、また制作を再開するも、1924年夏には色の判別が難しいほどになる。1926年夏、約束の日が来てもモネは《大装飾画》の引き渡しを拒み、さらに描くことを望んだが、肺疾患に冒され、病床に伏せがちとなる。そして寒い冬の日、クレマンソーとブランシュに看取られながら、静かに86年の生涯を閉じた。

戦後の再評価と晩年のモネの想いが伝わる作品群

1927年5月、長い年月をかけて描いた《大装飾画》はようやくオランジュリー美術館の二つの楕円形の部屋に展示された。国家寄贈の契約時に12点だった作品が、最終的には22点になった。しかし、クレマンソーの願いもむなしく、モネの作品は人々の関心を全くひかなかった。時代は、抽象、前衛の時代に移行し、象徴主義、ナビ派、フォーヴィスム、キュビスム、未来派と新たな流派が次々に生まれ、関心はそちらに向いていたのだ。1931年にはオランジュリー美術館でモネの回顧展が開かれたが、評論家に酷評され、《大装飾画》を展示した睡蓮の間はパリの真ん中で寂れた場所となってしまった。

しかし、第二次世界大戦の数年後、事態は変わっていく。復員援護法のもと若いアメリカ人画学生たちがモネの《睡蓮》を観るために集まってきたのだ。始まりも終わりもない色のリズムが若者の心に響いた。

クロード・モネ《枝垂れ柳と睡蓮の池》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館 パリ © musée Marmottan Monet

クロード・モネ《枝垂れ柳と睡蓮の池》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館 パリ © musée Marmottan Monet


また1949年にバーゼルで印象派展が開催されると、モネ晩年の《大装飾画》の関連作品や習作が評価され、50年代にはそれらがヨーロッパ 各地の美術館で公開された。そして画家のアンドレ・マッソンが、モネの《大装飾画》をバチカンのシスティーナ礼拝堂に例えて「印象派のシスティーナ礼拝堂である」と表現したのだ。やがて、欧州でのモネ再評価の動きに連動し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)がモネの《睡蓮》を購入。抽象表現主義の先端として位置付けた。こうしてモネは、本人も予期せずして《睡蓮》により、抽象絵画の先駆者として美術史上に名を残すことになった。

2024年10月、マルモッタン・モネ美術館所蔵の、ジヴェルニーで描かれた作品、およそ50点が初めて東京・上野の国立西洋美術館に一堂に会す。当初《大装飾画》の壁面上部に設置する計画であった藤の花や、周囲を彩る予定だった水辺の草花アガパンサスやアイリス、キスゲ、柳、そして「水の庭」をモティーフにした作品群が並ぶ。

クロード・モネ 《日本の橋》1918年 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館 パリ © musée Marmottan Monet

クロード・モネ 《日本の橋》1918年 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館 パリ © musée Marmottan Monet


マルモッタン・モネ美術館にはジヴェルニーのモネの家に残された作品を次男ミシェル・モネが多数寄贈している。本展では、モネが光の一瞬の揺らぎをとらえることに集中し、自らが丹精を込めてつくり上げた庭の景色から、やがて目の前の水面の光の反映こそが作品の主体となっていく過程まで、モネの視点や辿りついた境地が窺える。花を愛し、日本を愛し、光のきらめきを追求し続けたモネが晩年に描いた貴重な作品をまとめて観ることのできるこの好機に、ゆっくりと作品に向き合ってみてはいかがだろうか。
松井文恵 
アートライター。Sotheby’s Educational Studies, London で西洋美術史を学ぶ。ヴェルサイユをはじめ、オルセー、ウフィッツィ、ドレスデン、クレムリン、ヴェネツィア、ベルリンなど日本での美術館紹介のために海外に多数取材。図録編集や執筆また、ルーヴル美術館の日本語版解説パネル作成プロジェクトやバチカン図書館TV番組の企画などにも携わる。

印象派のモネ「花の庭・水の庭」へ 写真・文 南川三治郎

『印象派のモネ「花の庭・水の庭」へ』

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モネと睡蓮 文 ベアトリス・フォンタネル 絵 アレクサンドラ・ユアール 翻訳 松井文恵 定価:3,190円(税込) https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4418242198/sekaibunkacom-22  

『モネと睡蓮 ジヴェルニーの庭の小さなスパイ』

文 ベアトリス・フォンタネル/絵 アレクサンドラ・ユアール/翻訳 松井文恵
定価:3,190円
Amazon.co.jpで購入する⇒

『モネ睡蓮のとき』

クロード・モネ 《睡蓮》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館 パリ © musée Marmottan Monet

【東京展】
会場 国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)

会期 2024年10月5日(土)~2025年2月11日(火・祝)

開館時間 9時30分~17時30分(金・土曜日は21時)※入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日、11月5日(火)、12月28日(土)~2025年1月1日(水・祝)、1月14日(火)
※ただし、11月4日(月・振休)、2025年1月13日(月・祝)、2月10日(月)、2月11日(火・祝)は開館。

入場料(当日券) 一般2,300円 大学生1,400円 高校生1,000円

展覧会公式サイト https://www.ntv.co.jp/monet2024/

●お問い合わせ
050-5541-8600(ハローダイヤル)

※本展は、【京都展】2025年3月7日~6月8日に京都市京セラ美術館、【豊田展】6月21日~9月15日豊田市美術館が予定されています。

家庭画報ドットコム会員限定プレゼント企画

5組10名様に「モネ 睡蓮のとき【東京展】」の鑑賞券をプレゼントいたします。応募ボタンからご応募ください。

応募締め切り:2024年11月15日(金)

※応募には、家庭画報ドットコムの会員登録(無料)が必要です。
家庭画報ドットコム会員(無料)に登録する>>
会員についてのQ&Aはこちら>> >



注意事項(必ずお読みください)
・応募者多数の場合は抽選となります。抽選結果に関するお問い合わせはお答えいたしかねます。
・当選の発表はプレゼントの発送をもって代えさせていただきます。
・住所不明・長期不在等で届かなかった場合は、当選を無効とさせていただきます。

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