“人生の秋”を迎えてより深く楽しんでいきたい
シンガーとしてデビューしてから、すでに30余年。十分なキャリアを持つが「一作一作、アルバムを制作することは、大変な作業です」と、真剣なまなざしを向けた。常にリスナーの心に響く、上質な作品を創り上げてきた年月だった。
「今回も、自分が描くイメージに辿り着かなくて、心と体がちぐはぐというのか、迷いました。それでアスリートが試合前にトレーニングを重ねるように、とにかく何度も歌わせてくれとプロデューサーに話しました。録らなくていいからとにかく歌い込みたいと。それをやりながら、自分が何をやりたいのか、どうありたいのかを見出していったんです」
音楽に対するまっすぐな姿勢は、代表曲である「ピース・オブ・マイ・ウィッシュ」に対しての、1つのエピソードにもうかがえた。
「あの曲は、もう皆さんにとってスタンダードですよね。その重責がすごくなってしまい、一時期、もう歌いたくない、歌えないとさえ思ったときがあったんです。でも、東日本大震災に遭われたかたから、『あの曲が流れてきて救われました』というお手紙をいただいたんです。そのとき、この曲は皆さんの中に咲いている花のようなものなのだと知った。それからです。ずっと大切に歌い続けていこうと」
今年、55歳という年齢を迎え「“人生の秋”という季節に入ったのかな」と微笑む。
「でも感傷的な気分とかではまったくないんです。私も夫も50代を自然に受け止められたのは、やはりロンドンで四季の流れを肌で知ったことが大きいと思います。アルバムには、ミドルエイジが主人公の映画、『終わった人』の主題歌も入っていますが、夫が詞と曲を書いています。お互いに50代半ばのいまだから、無理なく表現できた心象ですね」
スレンダーな体と、めいっぱい笑う気どりのなさは昔から変わらず。むしろ自然体の美しさが増してきたかのようだ。
「若さだけで生きていた頃とは違ってくるし、人生には限りがあるということを、前よりもずっと感じるようになりました。あとどのくらいコンサートができるのかなとか、何枚のアルバムを作れるだろう、などと考えたりもしますよ。でもそれは決してネガティヴな気持ちではなくて、むしろこれから実りの時期に向かって、音楽を、人生を、さらに深く楽しみ続けていきたいという思いなんです」
8月から全国ツアー(計19公演)がスタート。「一生懸命、心と体の筋力を鍛えているところです(笑)。もう30年を超えたなんて、自分でも驚きですけど、こうやって音楽の道を歩んでこられたこと、ロンドンに住むことで歌の道が閉ざされることも覚悟しましたが、いま、こんなによいペースで続けられていることに感謝しています。これからも心を込めて歌い続けます」
今井 美樹/Imai Miki
1963年、宮崎県出身。
86年、シングル『黄昏のモノローグ』で歌手デビュー。ドラマ、映画などでも活躍する。代表曲に「PRIDE」ほか。99年、布袋寅泰と結婚。1女の母。8月16日〜10月13日まで、全国ツアーを開催。
『Sky』発売中
ユニバーサルミュージック( 3000円 TYCT-60116)
東京とロンドンでレコーディングされた、3年ぶりのオリジナル・アルバム。やさしい歌声の10曲に癒やされる。亀田誠治プロデュース。映画『終わった人』主題歌、「あなたはあなたのままでいい」を収録。
表示価格はすべて税抜です。
撮影/合田昌弘 取材・文/水田静子 ヘア&メイク/松田美穂
「家庭画報」2018年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。