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詩人の再読の書。小池昌代さんに“迫ってくる”3冊の本(後編)

2018.10.02

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●詩人の再読の書

本は自分の人生と重ね合わせて読むものだから、同じ本であっても、その時々で自分への迫り具合は変わってくるもの。そう話す小池さんにとって、今、すごく迫ってくる作品が鴨 長明の『方丈記』と深沢七郎の『楢山節考』。ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』も、繰り返し読み返す作品のひとつだという。


『方丈記』鴨 長明(岩波文庫) 『方丈記私記』堀田善衛(ちくま文庫)

『方丈記』といえば、まず無常観というキーワードでわたしたちは読もうとしますけど、これは鴨 長明が地震や大風、大火などの災害を、克明に記録した災害記録文学なんです。そして『方丈記私記』は、1945年3月10日の東京大空襲を体験した堀田善衛が、『方丈記』に自身の人生を重ねて読んだ作品です。『方丈記』にも下町大空襲とぴったり重なるような記述がありますが、自分の生き方とがぶりよつで古典を読む堀田善衛の読み方は本当に迫力があります。今年亡くなった私の父も、東京大空襲を経験していて、大火を逃れるために祖父と川に入って身を潜めていたこと、そのときに大日如来が流れてきて……という話をいやになるほど繰り返し聞かされましたが、そうやって記憶を重ね合わせながら自分事として古典を読むと、迫り方が違うんです。

『楢山節考』深沢七郎(新潮文庫)

『楢山節考』は息子がお婆さんを背負って山に捨てに行く話で、何度か映画化もされた有名な小説ですけど、深沢七郎は危険なものを書く人です。この作品は、いろいろな人が歌を歌いながら、最後は山に入って死んでいく歌物語でもあります。小説のなかでは残酷な歌詞が結構のん気に歌われていて、深沢七郎は最後に楽譜付で歌を紹介しているので、歌うこともできるんです(笑)。私も長いこと、詩歌に入れ込んできましたけど、歌は哀しくて、強くて、残酷で、人間を支えるものだなあと思います。おりん婆さんが山に捨てられるとき、雪がちらちら舞っているシーンは読むたびに泣けるし、今は自分を彼女に重ねていて、〝あたし、どうやって死んでいこうか、おりん婆さんのように死にたい〟なんて思うけれど、それは傲慢で、なかなかあんなふうには死ねないです。

『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ 御輿 哲也訳(岩波文庫)

タイトル通り、灯台へ行く話ですけど、なぜかこの小説が好きで。『灯台へ』の“へ”が効いています。ウルフは小説家ですけど、彼女の意識の流れ、動き方は詩人そのもの。読んでいると、彼女の混沌とした意識のなかに入って時間の旅に揺蕩うことができる。その時間感覚が独特で忘れられないんです。他の小説では味わえない独特のものです。リリーという画家が出てきて、芸術論が展開されるところも好きなんです。子沢山のラムジー夫人とリリーには感情移入しますね。最初に出会った御輿さんの訳が好きで、ついこの岩波文庫を繰り返し紐解くことになります。



代々木にて

小池昌代/Masayo Koike

詩人・作家
1959年東京都生まれ。88年詩集『水の町から歩きだして』を刊行。97年『永遠に来ないバス』で現代詩花椿賞を、99年『もっとも官能的な部屋』で高見順賞受賞。講談社エッセイ賞を受賞した『屋上への誘惑』や、泉鏡花賞を受賞した『たまもの』など、エッセイ、小説、書評集など著書多数。

詩人、歌人の #ことばの世界 に触れてみませんか?

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取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎 撮影協力/花カフェ dance
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