アトリエの前にあるエノキの大木は、晩秋になると鮮やかに黄葉する。はさ木というのは、刈り取って束にした稲穂を竹竿にかけ天日干しにするが、その竹をくくり つける棒のことだ。
普通、この棒は、田んぼに突き刺して立てることが多い。しかし、秋の風を受けて倒れやすいので、生きた木を植えて棒の代わりに利用することがある。その場合、田植え作業の邪魔にならない土手や畦道にそって植えこむ。琵琶湖の西岸では、このはさ木に、クヌギを使う。
等間隔で植えられたクヌギは、生長するが、2メートルより背丈が伸びないように毎年剪定がなされる。これを何度も繰り返していると、クヌギの幹の先端がコブのように膨らんだ形状になる。
アトリエの雑木林に落下する山栗。半月ほど、毎日拾い集める。かつて、この界隈には、へんてこりんな姿をしたクヌギ並木が、あちこちで見られた。冬に落葉すると、銀色に輝く比良山を背景にして、とても美しい風景をつくりだしていた。
私が、里山をテーマに撮り始めた35年以上前は、並木のお気に入りのポイントがいくつかあって、晴れればカメラをかついででかけたものだ。 ところが、ここ30年来、はさ木の並木が、ひとつひとつ姿を消していった。
美しいキノコだが食べられないドクベニタケ。雑木林の中に普通に生えている。まもなく越冬するオオスズメバチの新しい女王バチ。春になったら巣作りを開始する。これまでの記事はこちら>> 今森光彦
1954年滋賀県生まれ。写真家。 切り絵作家。
第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞などを受賞。著書に『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社)、『今森光彦ペーパーカットアート おとなの切り紙』(山と溪谷社)ほか。
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