日本料理の魅力を再発見できる「五味自在」のコースに耽溺 「星のや京都」を訪ねる喜びのひとつが、久保田一郎料理長による季節感あふれる華やかな日本料理です。京都の老舗割烹に生まれ、京都、フランス、英国と世界各地で修業をした久保田さん。「五味自在」をテーマにしたコース料理には、その豊かな経験と日本料理に対する熱い想いが密やかに炸裂しています。至るところに素敵なストーリーが込められた9品の料理は、さながら久保田さんが描き出す季節絵巻。 盛夏の「五味自在」より。先付はコーンポタージュをイメージした「玉黍(たまきび)豆腐」。 昆布締めにした帆立貝と貝ひもでとった出汁が、とうもろこしの甘みを引き立てます。器は叶松谷作。
「ストレートに季節を味わえる先付に始まり、一目で日本らしさを感じられるような八寸。逆に吸い物は出汁が命ですから、シンプルに仕上げて舌で日本を堪能していただく……。日本の方にも外国のお客さまにも、日本料理の素晴らしさを再確認できる場になればと思っています」。 コースの中にはサプライズもいっぱい。たとえば盛夏の時期の向付は、なんとガスパチョにインスパイアされたという“変わり造里(づくり)”。 向付は蓮形の器も印象的な「変わり造里」。焼き霜にしたかんぱち、トマトスープにペコロス(プチオニオン)のピクルス、カレー風味のチュイルを崩していただきます。
「料理を分解して再構築するのが好きなんです(笑)。暑い季節にぴったりのガスパチョを日本料理で表現したらどうなるんだろう、と塩漬けのトマトからチュイル用のスパイス調合まで吟味して考え抜きました。スプーンでぐるっと混ぜて召し上がっていただくと、あら不思議(笑)、ほのかに生ハムの香りも残るガスパチョの味わいが口の中に広がりますよ」。 あ、本当だ、とお客さまの喜ぶお顔に、久保田さんも実に嬉しそう。それにしてもこれだけのエンターテインメントな献立作りには、並々ならぬご苦労がありそうですが――。 「今までの経験すべてが料理へのヒントになります。生産者さんのところに伺ったときに見た秋の畑の色合い。学生の頃、釣りに行って、地元のおじさんに教えてもらった鮎の食べ方。コルシカ島やロンドンでの日々……。いつかは料理で表現したいと思うことが、自分の中には積み重なっているんです」。 コースの華・八寸。保津川(ほづがわ)の夏の風景を映した一皿は、蛸柔煮、長芋素麺、鰺棒寿司、青梅蜜煮、岩石寄せ、手長海老艶煮、鮴(ごり)飴煮。
炭火で焼いた牛フィレ肉と季節の野菜の含め煮を一皿にした強肴。肉をあつあつのまま保つ器(野口風太作)も久保田さんのアイディア。
運が良ければ、カウンター席で久保田さんのお話を聞きながらお料理をいただけることも。京都出身の若き陶芸家とのコラボレーションによるオリジナルの器誕生秘話など、楽しいトークは尽きることがありません。
五味自在は多様性にも通じます、と久保田さん。ダイニング・「五味自在」コースは1名2万円(税・サービス料別)。