展示を辿っていくと、1922年頃に大きな転換を迎えたらしいことが見てとれる。絵でやろうとすることが明確になってくるのだ。
見つめているといつしか、さまざまな物が手前にせり出し、また奥に引っ込み出す。さまざまな事物が密接に絡み合いながら動き生きているこの絵画世界を緻密にコントロールすること、それが嬉々として試されている。
そしてその後に、住宅を機械にたとえた彼の建築がはじまる。そう、彼が機械という言葉で言おうとしたのは、この精緻な構成の詩学のことだったのだ。
東京工業大学工学部建築学科(当時)八木研究室《ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸》1/30模型 1988年 広島市現代美術館蔵銀行家ラ・ロシュ邸とル・コルビュジエの兄夫妻のジャンヌレ邸が二軒一棟となったラ・ロシュ=ジャンヌレ邸もそのひとつ。ル・コルビュジエはラ・ロシュの代理人としてピカソらの絵画を落札し、それらを飾る空間をも設計した。もちろんこの住宅空間も、歩くにつれ事物が動き生きはじめる機械としてつくられている。
現在ここはル・コルビュジエ財団事務局として使われているので、パリに行けば体験することができる。でも、実は日本でも体験できる空間がある。それがまさにこの展覧会会場、国立西洋美術館本館だ。
しかも今回は、小さなスケールの空間から背の高い空間まで、さまざまな空間単位が緊密に絡み合う展示室に、ラ・ロシュのコレクションが展示されている。何度も通いたい展覧会だ。
青木 淳(あおき じゅん)建築家。青木淳建築計画事務所。代表作に青森県立美術館など。著書に『フラジャイル・コンセプト』、編著に『建築文学傑作選』などがある。
『ル ・コルビュジエ 絵画から建築へ-ピュリスムの時代』
19世紀ホールには模型と映像を展示。国立西洋美術館を設計したル・コルビュジエ(シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)が、パリでアメデ・オザンファンとともに取り組んだ芸術運動「ピュリスム(純粋主義)」の時代の絵画作品を中心に展示。ピカソら同時代の画家も紹介する。
国立西洋美術館5月19日まで
休館日:月曜、5月7日(4月29日、5月6日は開館)
入館料:一般1600円
ハローダイヤル:03(5777)8600
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/木奥惠三
「家庭画報」2019年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。